カレー事件でビデオを証拠採用。裁判所も相当にヤキがまわったな。黙秘権を守れ。




2002ソスN3ソスソス23ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

March 2332002

 美しき名を病みてをり花粉症

                           井上禄子

語は「花粉症」で春。といっても、ようやく最近の歳時記に登録されはじめたところで、分類も「杉の花」の一項目としてである。幸いにも、私は花粉症を知らないが、多くの友人知己がとりつかれており、見ているだけで息苦しくも気の毒になる。なかにはアナウンサーもいて、職業柄、これはまさに死活問題。ついこの間も、彼が必死の放送を終えると、気の毒に思ったリスナーからよい医者を紹介したいと善意のファクシミリが届き、診療時間を調べてみたら、どの曜日も彼の仕事時間と重なっていた。「ああ」と、彼は泣きそうな顔で苦笑いを浮かべていた。だから、花粉症の人々にとっては、掲句を観賞するどころか、むしろ腹立たしいと思う人が多いかもしれない。作者が自分のことを詠んだのだとしたら軽度なのだろうが、しかし、他人のことにせよ、「美しき名を病みてをり」には一目置いておきたい気がする。たまたま読んでいた金子兜太の『兜太のつれづれ歳時記』に、関由紀子の「水軽くのんで笑って花粉病」に触れた文章があった。花粉症ではなく「花粉病」だ。「『病』が効いていて、『花粉に病む』などとどこかの美女麗人を想像させてくれる」とあり、掲句の作者と同様に、病名(症名)そのものへ美意識が動く人もいるのだと、妙に感じ入った次第だ。ちなみに、兜太自身も六十代には花粉症に悩まされたと書いてあった。『新日本大歳時記・春』(2000・講談社)所載。(清水哲男)


March 2232002

 斯く翳す春雨傘か昔人

                           高浜虚子

語は「春雨」。服部土芳の『三冊子』では、陰暦正月から二月初めに降る雨を「春の雨」とし、二月末から三月にかけての雨を「春雨」として区別している。今ごろから、しばらくの間の季節の雨……。暖かさが増してきてからの艶な感じを「春雨」に見ているわけだ。句の傘は洋傘ではなく、和傘だろう。しっとりとした雨のなかを歩いているうちに、ふと思いついて、粋な「昔人(むかしびと)」はどんなふうに傘をさしていたのだろうかと、いろいろとやってみた。芝居や映画の二枚目を思い出しながら、「斯(か)く翳(かざ)」したのだろうかなどと……。当人が真剣であるだけに、可笑しみを誘われる。その可笑しみを当人も自覚しているところが、なおさらに可笑しい。小道具が傘でなくとも、誰にでもこうした経験の一つや二つはあるだろう。男だったら、たとえば煙草の喫い方や酒の飲み方など、はじめのころにはたいてい誰かの真似をするものだ。私が煙草をやりだしたのは石原裕次郎が人気絶頂のころで、カッコいいなと思って当然のように真似をした。でも、これが何とも難しいのだ。煙草を銜えっぱなしにして、唇の左右にひっきりなしに動かさねばならない。当時はフィルターなしの両切り煙草だから、下手くそなうちは吸い口が唾液でぐしょぐしょになった。それでも、真似しつづけて何とかマスターできたころに登場してきたのが、フィルター付き国産第一号の「ハイライト」で、これだと実に容易にあっけなく唇で煙草を操れた。なあんだ、つまらねえ。と、その時点で真似は中止。おお、懐かしくも愚かなりし日々よ。『五百句』(1937)所収。(清水哲男)


March 2132002

 鍵ひとつ握らせてゐる花の下

                           今井 聖

見でのスケッチ。「握らせてゐる」というのだから、大人同士の受け渡しではなく、親が子供に鍵をしっかりと握らせているのだろう。まだ、そんなに大きくない子だ。急に体調が悪くなったのなら、親もいっしょに引き揚げるところだが、おそらく子供は退屈しきってしまい、先に帰ると言い出したにちがいない。「握らせてゐる」という所作のなかには、無くさないようにと念を押す気持ち以外にも、このまま一人で帰してよいものかどうかなど、親の逡巡が含まれている。しっかりと握らせることで、その逡巡を立ち切ろうとしている。親の困ったような顔と「だいじょぶだよ」とうなずいている子。しかし、子供もちょっと不安気だ。そんな様子が、目に浮かぶ。家族での行楽には、わがままが顔を出しやすいので、ときどきこういうことが起きる。ましてや歩くばかりの花見ともなれば、子供には弁当を食べることくらいしか面白いこともないのだから、すぐにイヤになってしまうのだろう。しかも、まわりは大人だらけである。そういえば、シクシク泣いている子をよく見かけるのも花見の道だ。さりげないスケッチながら、掲句はそのあたりの人情の機微を的確に捉えている。東京あたりでは、今日花見に繰り出す人々が多そうだが、なかには、きっとこういう親子もいるのでしょうね。『谷間の家具』(2000)所収。(清水哲男)




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