マンション修繕工事のシートで覆われた日陰のつつじが、やっと咲きはじめました。♪




2002ソスN4ソスソス27ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

April 2742002

 遠く航くための仮泊の春灯

                           友岡子郷

語「春灯」は「はるともし」と読ませている。作者は神戸在住だから、神戸港の情景だろう。燃料などの補給のために、仮泊している外国船籍の船。各船室にはさながらホテルを思わせる灯がともっていて、いかにも明るく華やいだ感じがする。「遠く」どこまで航(ゆ)くのだろうか。明日になれば幻のようにいなくなってしまうであろう客船を、作者はしばしたたずんで眺めている。我が身とは何の関係がなくても、何故か船にはロマンチックな雰囲気がある。空の船である飛行機には感じられない、物語性がある。スピードの差もあるだろうが、交通手段としての歴史の差も働くからだろう。そしてまた、船は人々の生活を乗せて航海しているのに比して、飛行機にはそれがない。点から点へと素早く移動するための道具としての機能が、最優先されている。戦後に「憧れのハワイ航路」という歌謡曲(歌・岡晴夫)がヒットしたけれど、対するに「憧れのハワイ飛行」というわけにはまいらない。飛行機のフライト過程は、限りなく無に近いのだ。理屈はともかく、春の宵のおぼろな雰囲気のなかに浮かんでいる外国船の様子が、すっと素直にうかがわれて、地味ではあるが佳句だと思った。『椰子・椰子会アンソロジー2001』(2002)所載。(清水哲男)


April 2642002

 南朝に仕へたる太刀飾りけり

                           民井とほる

錦の御旗
語は「武具飾る」で夏。端午の節句を前に、兜や太刀を飾ること。いまどきこうした家庭は少なくなったろうが、ウソかマコトかは知らねども、それなりの家の由緒をあらわす武具を受け継いでいる家は、地方の旧家に多かった。作者の家でも、吉野に逃れた後醍醐天皇に仕えた証拠の「太刀」が先祖代々の宝物として残されてあり、五月の節句には必ず飾ってきたのだ。飾った太刀を眺めている作者は、ずいぶんと誇らしげである。このへんが人間の面白いところで、六百年以上も昔の政変が身近に感じられ、武者ぶるいの一つもしかねない。世に南朝びいきは多いけれど、それはもとより後醍醐天皇の悲運の生涯への同情もある。が、こうした曰くありげな武具が、そこらへんにたくさん残されていることにもあるだろう。所有者は武具の真贋なんぞは問題ではなく、いや問題になどしたくなく、理屈抜きに南朝びいきになってしまう。そのひいきする心がまた、武具をより本物に仕立て上げるとでも言うべきか。この太刀ないしは刀袋に紋が付いているとすれば、新田義貞が後醍醐天皇より賜ったという「日月(じつげつ)」のそれであるはずだ。倒幕の官軍がひらひらさせて進軍した「錦の御旗」に刺繍されたものと、デザイン的には多少の変化が見られるようだが、同じ出自の紋である。写真は、江戸東京博物館のページから引っ張ってきた。実際に倒幕のときに使用された「錦の御旗」だという。東征に従軍した伊予大洲(いよおおず)藩に、薩摩藩を通して下賜されたと伝えられている。しばしば私たちは何かを批判するときに、相手を「錦の御旗」持ちと揶揄したりするが、具体的な旗のイメージを知る人は少ないと思うので……。『合本俳句歳時記』(1997・角川書店)所載。(清水哲男)


April 2542002

 帆に遠く赤子をおろす蓬かな

                           飴山 實

語は「蓬(よもぎ)」で春。海の見える小高い丘に立てば、遠くに白帆が浮かんでいる。やわらかい春の陽光を反射して、きらきらと光っている水面。気持ちの良い光景だ。作者はここで大きく背伸びでもしたいと思ったのか、あるいは腕のなかの「赤子」の重さからちょっと解放されたかったのかもしれない。たぶん、赤ん坊はよく眠っているのだろう。あんなにちっぽけでも、重心の定まらない赤ん坊を長時間抱っこしていると、あれでなかなかに重いのである。手がしびれそうになる。「おろす」のにどこか適当な場所はないかと見回してみても、ベンチなどは置いてない。そこで、やわらかそうに群生している「蓬」の上に、そおっとおろしてみた。このときに作者の目は、白帆の浮かぶ海からすうっと離れて、視野は濃緑色のカーペットみたいな蓬で満たされる。この視線の移動から、どこにも書かれてはいないけれど、父親としての作者の仕草がよくわかる。そっとかがみこんで、いとしい者を大切に扱っている様子が、読者の目に見えてくる。蓬独特の香りも、作者の鼻をツンとついたことだろう。蓬に寝かされた赤ん坊は、まだすやすやと気持ち良さそうに眠っている。やさしい風が吹いている。『少長集』(1971)所収。(清水哲男)




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