May 292002
集金は残り一軒雨蛙
納谷一光
季語は「雨蛙(あまがえる)」で夏。あたりに雨の気配が漂ってくると、よく通る声で鳴く習性を持つことからの命名。外で仕事をする人にとっては、頼もしくも天才的な雨の予報官だ。彼らが鳴きはじめると、濡らしてはいけない道具類をまずは緊急退避させたりする。さて、掲句の作者は傘を持っていないので、雨蛙が鳴きはじめたとなると、気が気ではない。空を見上げれば、さきほどまでの青空はすっかり姿を消してしまい、まもなくザァーッと降ってきそうだ。さあ、どうしたものか。雨蛙が鳴くくらいだから、繁華な都会の道ではないだろう。自分自身を緊急退避させなければと思うと同時に、しかし仕事は「残り一軒」でめでたく終わるのだ。どうしようか。もう一度考えて、「ええい、ままよ」と「集金」を優先させることにした。急に足早に歩きはじめた作者の周囲では、ますます雨蛙の鳴き声が繁くなってくる……。そんな印象を受けた。これが「残り三軒」ならば、誰が悪いわけじゃなし、あきらめて引き返すところだろうに、あと「一軒」だからかなりの無理をしてしまう。仕事には、そういった側面がありますね。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)
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