よろよろと7年目を迎えました。当ページもあと4年。月末には単行本が出る予定です。




2002ソスN7ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 0172002

 滝田ゆうの夕焼横町抜ケラレマス

                           倉橋羊村

パロディ
語は「夕焼」で夏。作者添え書きに「滝田ゆうの画展で『墨東奇譚』のこの看板の横町が描かれた」(「墨」にはサンズイがつくが、ワープロにないのでご容赦を)とある。戦前の荷風のこの小説を踏まえたのが、戦後の滝田ゆうの漫画『寺島町奇譚』だ。物語はさておいて、いずれも舞台は浅草からほど近い玉の井である。荷風の時代には一大私娼窟があり、夜ともなると男どもの遊び場としてにぎわった。荷風によれば、玉の井は「ごたごた建て連なった商店の間の路地口には『ぬけられます』とか、『安全道路』とか、『京成バス近道』とか、あるいは『オトメ街』あるいは『賑本通(にぎわいほんどおり)』など書いた灯がついている」というたたずまいであった。ところが、この「ぬけられます」。看板に偽りありもいいところで、路地を入るとさらに細い路地や横丁が交錯し、通い慣れた人でもグルグル同じところをめぐるハメに陥ったという。一度入ったら出られないラビラント(迷宮、迷路)は、やたらと多い交番、風呂屋、お稲荷さんと並んで玉の井名物だったらしい。現在でも、ややこしく入り組んだ細い道が、昔を彷彿させる。そんな街の「夕焼」と「抜ケラレマス」の看板。滝田ゆうの展覧会を見ているうちに、この絵の前で釘付けになった。それも玉の井そのものへの郷愁というのではなく、古き時代の庶民の街への何とも言えない懐かしさからだろう。たとえ夜は繁華でも、それだけに夕焼けのころにはまだ淋しい感じのする街が、昔はあちこちにあった。荷風も滝田も、そして作者もまた、その淋しさをこよなく愛している。手元に滝田ゆうの本がないので、雰囲気をつかんでいただくために、この滝田の作品をパロディ化した長谷邦夫「特出し町奇譚」の一コマ(『パロディ漫画大全』水声社・2002)を掲額しておく。えっ、誰ですか、「ぶち壊しだ」なんて言うのは(笑)。これまたパロディ、ね。ダーン。「俳句」(2002年7月号)所載。(清水哲男)


June 3062002

 梅雨荒川酒の色して秩父より

                           久保田慶子

強く、そして美しい句。ポイントは「酒の色して」だが、この酒は濁(にご)り酒だろう。梅雨のさなか、茫々たる「荒川」に見る水の色はさもありなんと思わせる。はるかな秩父の山中に発し、長い道程を経て初発の色から大きく変化した川水の色は、なまなかな形容では捉えきれまいが、はっしと「酒の色」と言い止めた作者の炯眼には感心させられるのみ。おのずから発酵し熟成した水を指し示した比喩の確かさは、どうだろう。堂々たる貫録のある句だ。こんなふうに風景を見ることができたなら、どんなに心豊かな時を過ごせるだろうかと、作者の感受性がうらやましい。以下、荒川の水脈については、電子百科事典による。「関東山地、奥秩父(おくちちぶ)主峰甲武信(こぶし)ヶ岳(2475メートル)に源を発し、奥秩父全域の水を集めて、秩父盆地、長瀞(ながとろ)を経て、寄居(よりい)町で関東平野に出る。熊谷(くまがや)市久下(くげ)で流路を南東に変え、さいたま、川越(かわごえ)両市の間で入間(いるま)川をあわせ、戸田(とだ)市付近で東に転じて埼玉県と東京都との境をなす。東京都北区の岩淵(いわぶち)水門で支流の隅田(すみだ)川と本流の荒川に分かれて東京湾に注ぐ。延長169キロ、流域面積2940平方キロの関東第二の大河川である。(C)小学館」。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)


June 2962002

 山奥に叔父ひとりおり山椒魚

                           寺田良治

語は「山椒魚(さんしょううお)」で夏。山間の渓流などに生息し、山椒に似た体臭があるのでこの名がついたそうだ。私は、水族館でしか見たことはない。トカゲの親分みたいな姿をして、いつ見ても不機嫌そうにムーッとしている。そんな山椒魚に係累があるとしたら、どんな関係があってどこに住んでいるのだろう。と、たいていの人が思いもしないことを思いついてしまうのが、作者のユニークなところ。「山奥に叔父ひとりおり」と言われてみれば、たしかにそんな気がする。その叔父もまた、山奥で同じようにムーッとしているのかと想像すると、とても可笑しい。同時に、両者はおそらく音信不通だろうし、彼にはもはや母や父もいないと知れるから、ちょっぴり可哀想な気もする。良質なペーソスが、じわっと感じられる佳句だ。他の「洗濯が好きでヨットに乗っている」や「ソーダ水しゅわっと泡立つお葬式」などと読みあわせて、かなり若い人の句かと思って略歴を見たら、私よりもずっと年長だった。還暦を過ぎて俳句をはじめたのだというから、驚きだ。「読みながら笑ってしまう句集である。こんな句集はめったにない」と、跋文で坪内稔典が書いている。『ぷらんくとん』(2001)所収。(清水哲男)




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