July 222002
アメリカへ行くお別れの水遊び
塩見道子
季語は「水遊び」で夏。子供の水を使う遊び全般を指す。公園の噴水池でじゃぶじゃぶやったり、水のかけっこや水鉄砲など、子供たちは水が好きだ。この場合は、ふくらませて庭に置くビニール製のプールでの遊びのような感じがする。「アメリカへ行く」といっても観光旅行ではなく、夫の仕事上での転勤で、一家をあげて渡米するのだ。当分の間は、日本に戻ってこられない。そこで、まだ幼い子の近所の仲良し二、三人に来てもらって、しばし「お別れの水遊び」というわけである。むろん、子供らにはこれでもういっしよには遊べなくなることなどわからないから、いつものようにいつもの調子で、無心にはしゃいでいる。その屈託のない無邪気さが、作者を余計に切なくさせている。行きたくない、このままの平凡な生活がいいな。ちらりと、そんな思いも心をかすめたことだろう。こうした別れの場面が珍しくなくなってから、もう四半世紀ほどになる。私の娘もドイツ暮らしが長いし、つい最近では甥っ子がカナダに転勤となった。友人知己の身内にも、外国暮らしは何人もいる。現に当ページを、海外で読んでおられる日本人の読者も少なくない。まことに時代の激変を感じるが、私にとってはいかに飛行機が速く飛ぶようになっても、アメリカもドイツもカナダも、やはりはるかに遠い国のままである。掲句に目が止まった所以だ。『新日本大歳時記・夏』(2000)所載。(清水哲男)
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