暑いのに蝉の鳴き声が聞こえません。なんとかのないコーヒーみたいな盛夏であります。




2002ソスN7ソスソス24ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 2472002

 黒眼鏡暗しふるさと田水沸く

                           西村公鳳

語は「田水沸く」で夏。この季節の田圃は強烈な陽射しのために、湯のように熱くなる。化学肥料に頼らなかった時代には、この熱い田圃に入って草を取るのが夏の農家の大仕事だった。一番草から三番草まで、焼けつくような太陽を背に黙々と草を取る大人たちの姿が忘れられない。よくぞ熱中症で倒れなかったものだ。亀村佳代子に「鳥影も煮立つ田水の二番草」があるが、決して大袈裟な物言いではないのである。掲句は、そんな「ふるさと」での暮らしを嫌って、都会に出ていった男の作だと読める。夏休みでの帰省だろうか。一面の田圃が照り返す光りのまぶしさに、都会で常用している「黒眼鏡」をかけた。いきなり「ふるさと」は暗くなり、田水の湧く熱気が暗く立ち上ってくるばかり……。この暗さは、黒眼鏡による物理的な暗さでもあるが、作者の内心から来るそれでもあるだろう。昔からの多くの農村脱出者に共通する、ひさしぶりの故郷を前にしたときの後ろめたくもやりきれない暗い心情が、田水のように心のうちに沸いてくるのだ。言うところの故郷に錦を飾れたのならばまだしも、都会での仕事に何一つ誇りを持つことのできないでいる男の帰郷はかくのごとしと、作者は黒眼鏡をかけたまま憮然としている。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


July 2372002

 夕すずみよくぞ男に生れけり

                           宝井其角

やあ、暑いですねえ。本日は二十四節気の大暑(たいしょ)という日にあたります。極熱の盛んなるとき、一年中でいちばん暑いときと言われてきた。其角の生きていた江戸時代には、むろん冷房装置などはないので、夕方になると表に出て涼を取った。そして男は、表でも浴衣の腕もまくれば尻もはしょる。女性にはそれが出来なかったから、「よくぞ男に生れけり」なのである。が、いまの時代に其角がいたとしたら、とてもこう詠む気にはならないだろう。理由は、一分間ほど街を歩いてみれば、誰にでもわかること。それにしても、反俗の俳人にしては、実に他愛ない句だ。酔っぱらっての落書きみたいだ。ではあるけれど、この句ほどに有名になった句も珍しい。なかには俳句とは知らずに、この文句のバリエーションを口にしてきた人も多いだろう。その意味では、山口素堂の「目には青葉」の初鰹の句と双璧をなす。後者にはまだ技巧的な仕掛けがあるけれど、この句には何もない。なぜ、こんな句を作ったのか。私には永遠の謎になりそうだ。つまらなさついでに、其角句をもう一つ。「夏の月蚊を瑕にして五百両」。例の「春宵一刻値千金」を踏まえていて、夏の月も本来ならば「千金」のはずなのだが、蚊が出てくるのが(タマに)「瑕(きず)」であり、半額の値打ちにせざるを得ないという意味だ。作者が考えた割に「よくぞ」ほど俗受けしなかったのは、見え透いた下手な仕掛けのせいだろう。両句ともに、あまりの暑さで、さすがの其角の頭もよくまわらなかったせいかとも思われてきた。重ねて、暑中お見舞い申し上げます。(清水哲男)


July 2272002

 アメリカへ行くお別れの水遊び

                           塩見道子

語は「水遊び」で夏。子供の水を使う遊び全般を指す。公園の噴水池でじゃぶじゃぶやったり、水のかけっこや水鉄砲など、子供たちは水が好きだ。この場合は、ふくらませて庭に置くビニール製のプールでの遊びのような感じがする。「アメリカへ行く」といっても観光旅行ではなく、夫の仕事上での転勤で、一家をあげて渡米するのだ。当分の間は、日本に戻ってこられない。そこで、まだ幼い子の近所の仲良し二、三人に来てもらって、しばし「お別れの水遊び」というわけである。むろん、子供らにはこれでもういっしよには遊べなくなることなどわからないから、いつものようにいつもの調子で、無心にはしゃいでいる。その屈託のない無邪気さが、作者を余計に切なくさせている。行きたくない、このままの平凡な生活がいいな。ちらりと、そんな思いも心をかすめたことだろう。こうした別れの場面が珍しくなくなってから、もう四半世紀ほどになる。私の娘もドイツ暮らしが長いし、つい最近では甥っ子がカナダに転勤となった。友人知己の身内にも、外国暮らしは何人もいる。現に当ページを、海外で読んでおられる日本人の読者も少なくない。まことに時代の激変を感じるが、私にとってはいかに飛行機が速く飛ぶようになっても、アメリカもドイツもカナダも、やはりはるかに遠い国のままである。掲句に目が止まった所以だ。『新日本大歳時記・夏』(2000)所載。(清水哲男)




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