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August 1482002

 樟脳舟しやうなう尽きてしまひけり

                           菊田一平

樟脳舟
季句としてもよいが、当歳時記では夏に分類しておく。「樟脳舟(しょうのうぶね)」は、夏祭りの屋台店などでよく売られていた玩具だからだ(写真はここより借用)。ぺなぺなのセルロイド製の小舟で、後部に樟脳を挟むところがあって、洗面器に浮かべると思いがけないスピードで走り回った。たいていは夜店のサンプルのほうが長時間走っていたが、あれは取り付ける樟脳の量が売り物よりも多かったのか、おじさんの腕前がよかったのか。これだけ洗面器で走るのならと、本物の池に浮かべてみた奴がいたけれど、あえなく沈没してしまいベソをかいていたっけ……。汚れた水では、樟脳のパワーが落ちてしまうらしい。ちなみに、樟脳はクスノキの根や幹から抽出し、昔から防虫剤として使われてきた。医薬分野では「カンフル」と呼ぶ。気化性に富むので、その性質を巧みに利用したのが樟脳舟だ。掲句は、買ってきて機嫌よく走らせていた舟が、ついに走らなくなってしまったときの何とも言えない気持ちを詠んでいる。ちょっぴりしかない樟脳を大事に大事に使ってきたのに、ついに燃料切れになった。「しやうのう」の平仮名表記が、「しようがない」みたいに見えて面白い。いや、切ない。あきらめきれずに、じっと洗面器の舟をみつめている少年の姿が浮かんでくる。今年の夏も、そろそろおしまいだ。『どっどどどどう』(2002)所収。(清水哲男)




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