遅くなりましたが、西武優勝おめでとう。強すぎてつまらんというパ・リーグでした。




2002ソスN9ソスソス23ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 2392002

 月触るる一瞬鶴となる楽器

                           石母田星人

月琴
い室内に、月の光りが射し込んできた。立て掛けてあった、あるいは吊るしてあった楽器に光りが触れたとき、一瞬「鶴」のように思えたというのである。楽器は鶴を連想させたのだから、棹の長いギターや三味線のような弦楽器だろう。月夜の空にむかって首を伸ばし、いまにも一声発しそうな気配だ。素直に受け取れば、こういうことだろうが、もしかすると作者は、中国伝来の楽器、その名も「月琴(げっきん)」の演奏を聴いて想を得たのかもしれないと思った。「東アジアのリュート属の撥弦(はつげん)楽器。中国、宋(そう)代に阮咸(げんかん)から発達し、明(みん)代に現在のような短棹(たんざお)になった。胴は満月のように真円形をし、音は琴を連想させるため、月琴といわれる。(C)小学館」。渡来した江戸期には、大いに流行した楽器だといい、浮世絵にも数多く描かれている。絵からわかるように、たしかに棹が短い。短いが、演奏に吸い寄せられているうちに、佳境に入った一瞬、鶴の首のように棹が伸びたような感じになった。すなわち、演奏者が自在に月琴をあやつる様子を、このように詠んだとも取れるのではなかろうか。月と楽器。いずれにしても、この取り合わせは、それだけで耽美的な雰囲気を醸し出すようだ。『俳句スクエア・第一集』(2002)所載。(清水哲男)


September 2292002

 空に柚子照りて子と待つ日曜日

                           櫛原希伊子

語は「柚子(ゆず)」で秋。快晴。抜けるような青空に、柚子の実が照り映えている。「日曜日になったらね」と、作者は子供と出かける約束をしている。遊園地だろうか。約束の日曜日も、こんなに見事な上天気でありますように……。庭で洗濯物を干しながら、学校に行っている子供のことをふっと思いやっている。たとえば、そんな情景だ。大人にとっては、ことさらに特別な約束というのではないけれど、子供にしてみれば、大きな約束である。学校にいても、ときどき思い出しては胸がふくらむ。「はやく、日曜日にならないかなあ」。作者は、というより人の子の親ならば誰でも、そうした子供の期待感の大きさをよく知っているから、「子が待つ」ではなくて「子と待つ」の心境となる。さて、その待望の日曜日がやってきた。母子は約束どおりに、上天気のもと、機嫌よく出かけられたのだろうか。私などは、何度も仕事とのひっかかりで出かけられないことがあったので、気にかかる。作者も自註に、約束が果たせないこともあって、「また今度ね」と言ったと書いている。がっかりして涙ぐんだ子供の顔が、目に浮かぶ。よく晴れていれば、がっかりの度合いも一入だろう。掲句は言外に、何かの都合で約束が反古になるかもしれぬ、いくばくかの不安を含んでいるのではあるまいか。そう読むと、ますます空に照る柚子の輝きが目に沁みてくる。『櫛原希伊子集』(2000・俳人協会)所収。(清水哲男)


September 2192002

 名月を取てくれろとなく子哉

                           小林一茶

名な『をらが春』に記された一句。泣いて駄々をこねているのは、一茶が「衣のうらの玉」とも可愛がった「さと女」だろう。その子煩悩ぶりは、たとえば次のようだった。「障子のうす紙をめりめりむしるに、よくしたよくしたとほむれば誠と思ひ、きやらきやらと笑ひて、ひたむしりにむしりぬ。心のうち一點の塵もなく、名月のきらきらしく清く見ゆれば、迹(あと)なき俳優(わざをぎ)を見るやうに、なかなか心の皺を伸しぬ」。この子の願いならば、何でも聞き届けてやりたい。が、天上の月を取ってほしいとは、いかにも難題だ。ほとほと困惑した一茶の表情が、目に浮かぶ。何と言って、なだめすかしたのだろうか。同時に掲句は、小さな子供までが欲しがるほどの名月の素晴らしさを、間接的に愛でた句と読める。自分の主情を直接詠みこむのではなく、子供の目に託した手法がユニークだ。そこで以下少々下世話話めくが、月をこのように誉める手法は、実は一茶のオリジナルな発想から来たものではない。一茶句の出現するずっと以前に、既に織本花嬌という女性俳人が「名月は乳房くはえて指さして」と詠んでいるからだ。そして、一茶がこの句を知らなかったはずはないのである。人妻だった花嬌は、一茶のいわば「永遠の恋人」ともいうべき存在で、生涯忘れ得ぬ女性であった。花嬌は若くして亡くなってしまうのだが、一茶が何度も墓参に出かけていることからしても、そのことが知れる。掲句を書きつけたときに、花嬌の面影が年老いた一茶の脳裏に浮かんだのかと思うと、とても切ない。「月」は「罪」。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます