November 062002
紅葉づれる木にターザンの忘れ綱
服部たか子
懐 しいな、ターザン。イギリス貴族の末裔にして、ジャングルの王者。五十代半ば以上の世代で、この有名人を知らない人はいないだろう。「アーアーアー」と雄叫びを上げながらジャングルを駆け回り、蔓を使って枝から枝へと飛び移り、人食いワニのいる河などものともせずに泳ぎきる。これぞ正義の味方、世界最強の男。五輪の水泳選手だったワイズミュラー主演の映画は十二本制作されているが、ほとんどが日本でも公開されたのではなかろうか。私は学校の巡回映画で、そのうちの何本かしか見ていない。遊び道具など何もなかったころ、男の子はすぐに影響されて「ターザンごっこ」に突っ走った。なにしろシチュエーションとして、周囲に人工的なものがなければないほどよいのだから、山の子には好都合だったということもある。いくらでも、ジャングルに見立てられる場所があった。いちばん熱心にやったのが、木の枝に蔓ならぬ縄をくくりつけてぶら下がり、枝から枝へ飛ぶのはさすがに恐かったので、思いきり弾みをつけて遠くまで飛ぶ遊び。このときに、柿の枝が折れやすいことを実感として知った。掲句の作者は「紅葉(もみ)づれる」(紅葉しつつある)木の枝に、子供らのターザンごっこの痕跡を認めて微笑している。「紅葉づれる」という古語と「ターザン」の今風語との取り合わせが面白い。作句意図とは別に、俳句はよくこのように時代の流行り物や風俗習慣などを後世に残す装置でもある。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)
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