さて、FA宣言選手との交渉がはじまる。今年のストーブ・リーグは、結構面白そうだ。




2002ソスN11ソスソス13ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 13112002

 枯菊と言い捨てんには情あり

                           松本たかし

語は「枯菊(かれぎく)」で冬。アイルランド民謡に「The Last Rose of Summer」があり、日本では「埴生の宿」の作詞者でもある里見義が翻案して「庭の千草」とした。千草も虫の音も絶えてしまった寂しい庭に、ひとり遅れて咲いた白菊の花を感傷した歌だ。一番ほどには知られていないが、里見が書きたかったのはむしろ二番のほうだろう。「露にたわむや 菊の花/しもに おごるや 菊の花/ああ あわれ あわれ/ああ 白菊/人のみさおも かくてこそ」。この「ああ あわれ あわれ」が、季語「枯菊」の本意に込められた情感である。里見はこの情感を「人のみさお」のありように敷衍しているが、いささか説教くさい。対するに掲句の作者は、あくまでも枯れてもなおそこにある菊の美しさ(美の余韻)のみを言うにとどめている。そこに「あわれ」の情に溺れぬ潔さがある。ここで「情(なさけ)」とは、風情の意味だ。……と、私は読んだのだけれど、むろん俳句の読みに唯一無二の正解はない。あるいは「庭の千草」のように「人間も同じこと」と解釈する人がいても、間違いとは言えないし不思議ではない。虚子の「枯菊に尚或物をとどめずや」が、掲句の影響で詠まれたと指摘したのは山本健吉だが、虚子句は掲句よりもぐんと「庭の千草」寄りのような気がする。つまり、虚子は掲句を解釈する際に、枯菊そのものに宿る美の外に「或物」の存在を感じていたことになるからだ。『合本俳句歳時記』(1997・角川書店)所載。(清水哲男)


November 12112002

 冬蝶の日向セルロイドの匂ひ

                           櫛原希伊子

春日和の庭に、どこからともなく蝶が飛んできた。成虫のまま越年する蜆蝶などもいるから不思議ではないけれど、さすがに飛び方は弱々しい。蝶もはかなげなら、蝶を招いた「日向」もはかなげである。見ているうちに、ふっと作者は「セルロイドの匂ひ」を感じたと言うのである。セルロイドはその昔、玩具の人形などによく使われたから、とくに女の子にとっては匂いも忘れられないだろう。青い目の人形は「アメリカ生まれのセルロイド」という歌もあった。余談ながら、男の子の玩具にはブリキ製が多かったので、匂いではなくて触感として残っている。でも、男の子にもセルロイドの匂いがわかっているのは、下敷きなどの文房具に使用されていたためだ。さて、掲句のユニークなところは、冬蝶のいる日向全体の雰囲気をよく伝えるために、視覚ではなく嗅覚をもって押さえたところだと思う。それも実際の場所には存在しない記憶の中の匂いだから、こちらも冬蝶のいる日向のようにはかなげである。はかなげではあるが、しかし、多くの人が懐しくよみがえらすことのできる匂いという意味では、強い説得力を持つ。すなわち、人には臭覚を通じたほうが、情景がよりよく見えてくるということも起きるということ。五官の区別は便宜的なものであって、私たちは目だけで物をみたり、鼻だけで匂いをかいだりしているのではないということですね。『きつねのかみそり』(2002)所収。(清水哲男)


November 11112002

 西へ行く日とは柿山にて別る

                           山口誓子

子の山の句ばかりを集めたアンソロジー『山嶽』(1990・ふらんす堂)の編者後書きに、こうある。「美濃に、富有柿を一山に植え盡した柿山がある。ここの山は日だまりで、十二月に入っても硬質で大粒の柿を樹に成らせる。葉が落ち盡した裸木に赤い美事な実は枯れ一面の中に鮮かである」(松井利彦)。想像しただけで、見事な情景が浮かんでくる。実際に、見てみたくなった。よく晴れた日に、作者が見ているのは午後の遅い時間だろう。句は「別る」と押さえていて、既に日が没し(かかっ)た状態とも読めるが、そうではあるまい。「別る」は、別れることが決まっている切なさをあらかじめ先取りしているのであり、それゆえに眼前の一刻の景色を大切にする気持ちの現われを表現している。なだらかな山の上の数えきれないほどの柿の実に、まだまんべんなく日があたっていて、その朱色がいっそう輝いている時間なのだ。しかし、秋の日はつるべ落とし。間もなく「西へ行く日」とは別れねばならない。そして同時に、この柿山の美しさとも……。なお、深読みに過ぎるかもしれないが、初見のときの私には「日と」が「ひと」とのダブルイメージとなって、染み入ってきた。いずれにせよ、極めて格調の高い名句と言えよう。(清水哲男)




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