「まだ頑張ってるの」と言われた。ああ、そうか。コートというものがあったんだっけ。




2002ソスN11ソスソス27ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 27112002

 揚りたる千鳥に波の置きにけり

                           後藤夜半

語は「千鳥」で冬。『万葉集』の「淡海の海夕波千鳥汝が鳴けばこころもしのにいにしへ思ほゆ」以来の昔より、詩歌や絵画の素材として愛されてきた。この句には様式化された花鳥画を見るような趣があり、非常に雅で美しい。ここで注目すべきは、「波の」の「の」の用法だろう。「波が」でもなく「波を」でもなく、「波の」としたことにより、絵が動いている。千鳥たちが揚がった後に、新しい波が寄せてくる。その動きが、何度もリフレインされている。この「波の」の「の」という言葉の働きをあえて分解するとすれば、「波が」と「波を」の「が」と「を」の機能が、「の」一文字に重ね合わされているとでも言うべきか。少しややこしいが、つまり読者は「の」一文字に「が」と「を」の機能を同時に感じ取るので、絵が動いて見えるというわけだろう。ああ、日本語は難しい。話は変わるが、鳥の専門家でこんなことを指摘している人がいたので、紹介しておく。「『千鳥』は俳句の季語としては冬に入れられているが、日本のチドリ類の生態をみると、かならずしもあたってはいないので注意を要する。また、海岸にたくさんの鳥が集まっているようすから『千鳥』とよぶこともありうるが、この場合はチドリ類のみでなく、同様の環境でみられるシギ類をもさしていると思われる。シギ・チドリ類の群れは冬にもみられるが、春と秋の渡りの時期に大きな群れがみられる」(柳澤紀夫)。掲句は『青き獅子』(1962)に所収。(清水哲男)


November 26112002

 すずかけ落葉ネオンパと赤くパと青く

                           富安風生

ずかけ(鈴懸・プラタナスの一種)は丈夫なので、よく街路樹に使われる。夜の街の情景だ。ネオンの色が変化するたびに、照らされて舞い落ちてくる「すずかけ落葉」の色も「パと」変化している。それだけのことで、他に含意も何もない句だろう。でも、どこか変な味のする句で記憶に残る。最初に読んだときには「ネオンパ」と一掴みにしてしまい、一瞬はてな、音楽の「ドドンパ」みたいなことなのかなと思ったが、次の「パと青く」で読み間違いに気がついた。途端に思い出したのが、内輪の話で恐縮だけれど、辻征夫(貨物船)が最後となった余白句会に提出した迷句「稲妻やあひかったとみんないふ」である。このときに、井川博年(騒々子)憮然として曰く。「これが問題でした。これなんだと思いますか。大半のひとはこれを『た』が抜けているけど、きっと『逢いたかった』のだと読んだ。騒々子一発でわかりました。これは『あっ、光った』なんですね。実にくだらない。……」。同様に、風生の掲句も実にくだらない。今となっては、御両人の句作の真意は確かめようもないけれど、とくに風生にあっては、このくだらなさは意図的なものと思われる。確信犯である。一言で言えば、とりすました現今の俳句に対する反発が、こういう稚拙を装った表現に込められているのだと、私は確信する。おすまし俳句に飽き飽きした風生が、句の背後でにやりとしている様子が透いて見えるようだ。辻は、この句を知っていたろうか。『新日本大歳時記・冬』(1999)所載。(清水哲男)


November 25112002

 釣具屋を畳むにぎわい冬鴎

                           五味 靖

んなに大きな店ではなくても、いざ「畳む」となれば大変だろう。店主としてはひっそりと店じまいにしたいところだろうが、何人かの手伝いも来ていて、それなりににぎやかになっている。大声や笑い声も聞こえてくる。店を閉める主人の感慨もへちまもどこへやら、こういうときの現場はむしろ活気に満ちた「にぎわい」を見せるものだ。一方では、港か河口に近い場所なので、そこここには鴎(かもめ)たちがうるさいくらいに、群れをなして飛び回っている。まるで、映画の一場面のような光景……。そして、この二つの「にぎわい」から浮かび上がってくるものは、表面的な「にぎわい」の奥底に沈んでいる寂寥感だ。一つの小さな歴史が閉じられるときの寂しさを、二つの「にぎわい」の中にとらえた作者の目は鋭くも的確である。それにしても「畳む」という言葉は面白い。元来は「折り返して重ねる」、すなわち「きちんと整理する」に近い意だろうが、句のように「閉じて引き払う」の意味で使ったり、あるいは「胸に畳んでおく」などと内面的な意味で機能させたりもする。子供のころに、時代劇映画で「畳んじまえっ」という言葉を知ったときには驚いた。人の命を「畳む」とは乱暴な話だが、直裁的な「殺っちまえ」よりも、殺人者の逡巡が「畳む」と言わせているのかなと思ったのは、もちろん大人になってからのことである。『武蔵』(2001・私家版)所収。(清水哲男)




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