年賀状。今日中にデザインだけでも決めないと。羊は案外サマにならない姿をしている。




2002ソスN12ソスソス14ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 14122002

 水洟や仏観るたび銭奪られ

                           草間時彦

語は「水洟(みずばな)」で冬。「奈良玄冬」連作のうち。せっかく奈良まで来たのだからと、寒さをおしての仏閣巡り。あまりの寒さに鼻水は出るわ、先々で銭は奪(と)られるわで、散々である。作者の心持ちは、さしずめメールなどでよく使われる「(泣)」といったところか(笑)。「銭奪られ」で思い出したが、十年ほど前の京都は某有名寺院でのこと。拝観受付窓口のおっさんに「いくらですか」と尋ねたら、ムッとした顔でこう言った。「ここは映画館やないんやから、そういうシツレーな質問には答えられまへんな」。「は?」と、おっさんに聞き直した。すると、ますます不機嫌な声で「『いくら』も何もありまへん。ここは、訪ねてくださる方々のお気持ちを受け取るところですから」と言う。さすがに私もムッとしかけたが、なるほど、おっさんの言うことにはスジが通っている。「ああ、そうでしたね。失礼しました。では、どうやって気持ちを表せばよいのでしょうか」と聞くと、おっさんはプイと横を向いてしまった。とりつくしまもない態度。で、ふっと窓口の上のほうを見たら「拝観料○○○円」と墨書してあった。「ナニ体裁の良いこと言ってやがるんだ、このヤロー。これじゃあ映画館と同じじゃねえか」。そう怒鳴りつけたかったが、そこはそれ、ぐっとこらえて○○○円を差し出すと、おっさんはソッポを向きながらもしっかりと「銭」を受け取り、なにやらぺなぺなのパンフレットを放り投げるように寄越したことでした。ありがたいことです(泣)。『中年』(1965)所収。(清水哲男)


December 13122002

 暦果つばしやんばしやあんと鯨の尾

                           田中哲也

語は「暦果つ(暦の果・古暦)」で冬。当今の日めくりカレンダー的感覚で、暦の果てる大晦日の句と読んでもよい。が、この季語には、元来もう少し時間的な幅がある。昔の暦は軸物で、巻きながら見ていった。十二月の終わりころになると、軸に最も近いところを見ることになるわけで、それ以上は先がない。すなわち「暦果つ」なのだ。したがって掲句も、そろそろ今年もお終いかという気分でも読むことができる。さて、句の「ばしやんばしやあん」が、実に効果的に響いてくる。しかも、音立てているのは巨大な「鯨の尾」だ。回顧すれば、今年もいろいろなことがあった。しかし、そうした事どもを空無に帰すかのように、聞こえてくるのはただ「ばしやんばしやあん」と、遠い海のどこかで浮きつ沈みつ、鯨が繰り返し水を叩いている音だけなのである。この想像力は、素晴らしい。藤村ではないが、「この命なにをあくせく……」の人間卑小の思いが、「ばしやんばしやあん」とともに静かにわき上がってくるではないか。一種の無常観を詠むに際して、このように音をもって対した俳句を、寡聞にして私は他に知らない。無常の世界にも、たしかな音があったのだ。「ばしやんばしやあん」と、今年も暮れてゆきます。『碍子』(2002・ふらんす堂)所収。(清水哲男)


December 12122002

 ラグビーのボール大地に立てて蹴る

                           粟津松彩子

語は「ラグビー」で冬。あらためて言われてみると、なるほど「ラグビーのボール」は「立てて蹴る」。ゴール・キックの情景だ。句の妙は、ラグビーのフィールドを一気に「大地」に拡大したところにあるだろう。読者がそう実感できるのは、やはり「立てて蹴る」からなのだ。キックの前には競技が止まり、キッカーは息を詰めるようにして慎重にボールを立てる。この行為を、誰も助けてはくれない。孤立無援の行為だ。このときの彼の意識には、だから束の間敵も味方も何もなく、ただあるのはボールとそれを立てるべき地表だけとなる。全神経の集中が、彼にまるで「大地」のなかにひとり放り出されたような感覚を呼び起こす。見ている観客にも、それが伝わってくる。そしてねらいを定め、高々と「蹴る」。蹴った瞬間から、徐々に彼のなかには現実が戻ってくる。敵味方が動き、観客としての作者にも競技が戻ってくる。このいわば白い緊張感が、「大地に」と言ったことで読者の眼前に鮮かとなった。昔からラグビーの句はけっこう数詠まれてきたが、試合中の具体的なシーンそのものを詠んだ句はあまり見かけない。その意味でも珍しいが、作者はよほどのラグビー好きなのだろうか。蛇足ながら、作者八十九歳の作句だ。『あめつち』(2002)所収。(清水哲男)




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