ビル・エヴアンスか。ううむ、難物だなあ。何のことかって、単なるひとりごとです。




2003ソスN1ソスソス17ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 1712003

 風花や貌あげて鳴くとりけもの

                           長篠旅平

語は「風花(かざはな)」で冬。晴天にちらつく雪。誰が名づけたのか、美しいネーミングだ。盛んに使われるようになったのは、明治以降という。風花が来ると、人は「ああ」と言うように空を仰いで、しばらく見つめる。風花に「とりけもの」が反応するかどうかは別問題として、そういえば、彼らが「鳴く」ときは「貌(かお)あげて」いることに思いがいたった。でも、人は貌をあげても鳴かない。あるいは、泣かない。しかし、彼らと同じ動物としての人は、やはり同様に、声にこそ出さないけれど、貌をあげて鳴いている(泣いている)のではなかろうか。それが本来かもしれないと、すっと「とりけもの」にシンパシーを感じた一瞬だろうと読めた。このときに「とりけもの」の表記が「鳥獣」であれば、むしろ違和感を与えるところだが、平仮名にすることによって、気持ちが彼らに溶け込んでいる。外国語には翻訳できない日本語ならではの妙と言うべきか。ところで、句の解釈とは直接の関係はないが、この「けもの」という言葉を、私たちが日常的にまったくと言ってよいほど使わないのは、何故だろう。「とり」は使うし「さかな」も使う。「はな」や「くさ」や「き」も、頻繁に使う。何故「けもの」だけが別扱いというのか、まるで文語のようになってしまっているのか。とても気になる。『今はじめる人のための俳句歳時記』(1997・角川mini文庫)所載。(清水哲男)


January 1612003

 寒卵煙も見えず雲もなく

                           知久芳子

語は「寒卵(かんたまご)」で冬。寒中の鶏卵は栄養価が高く、また保存が効くので珍重されてきた。が、いまどきの卵を「寒卵」と言われても、もはやピンとこなくなってしまった。割った具合からして、いつもと同じ感じがする。それはともかく、掲句の卵は見事な寒卵だ。黄身が平素のものよりも盛り上がり、全体に力がみなぎっている様子がうかがえる。まさに一点のくもりもなく、椀に浮いているのだ。それを大袈裟に「煙も見えず雲もなく」と言ったところに、面白い味が出た。このときに「煙も見えず雲もなく」とは、あまりにも見事な卵の様子に、思わず作者の口をついて出た鼻歌だろう。というのも、この中七下五は、日清戦争時の軍歌「勇敢なる水兵」の出だしの文句だからだ。佐々木信綱の作詞。この後に「風も起こらず波立たず/鏡のごとき黄海は/曇り初めたり時の間に」とつづく。八番まである長い歌で、黄海の海戦で傷つき死んでいった水兵を讚える内容である。内容の深刻さとは裏腹に、明るいメロディがついていて、おかげでずいぶんと流行したらしい。しかし、作者は昨日付の宗因句のように、パロディを意識してはいない。したがって、好戦や反戦とは無関係。卵を割ったとたんに、ふっと浮かんできた文句がこれだった。すなわち鼻歌と言った所以だが、歌も鼻歌にまでなればたいしたものである。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)


January 1512003

 雪にとめて袖打はらふ駄賃かな

                           西山宗因

因は江戸前期の人で、元来は肥後八代の武家であったが、浪人して連歌師となり、のち俳諧に転じた。談林派の祖で、門下には西鶴もいた。現代の俳句から、まったくと言ってよいほどに影をひそめたのが、このような詠み方だろう。前書に「古歌なをしの発句にとてつかうまつりしに」とある。いわゆる「本歌取り」という手法で、意識的に先人の作の用語や語句などを取り入れて作る方法だ。掲句は、有名な藤原定家の「駒とめて袖打ち払ふ蔭もなし佐野の渡の雪の夕暮」を踏まえて作られている。宗因はこれを、旅の途中で激しい雪にあい、折りよく通りかかった馬子を「とめて」、「袖打はらふ」ほどのなけなしの銭で、高い「駄賃(だちん)」を支払ったと換骨奪胎した。定家の雅を俗に転じた機知と滑稽。「く〜だらねえっ」と、いまどきの俳人はソッポを向きそうだけれど、なかなかどうして、したたかで面白い句だ。遊びには違いないが、貴人定家の上品趣味をからかうと同時に、庶民の自嘲的哀感がよく出ているし、俗に生きなければ生きられない庶民の土性骨も感じられる。ところで、この定家の歌そのものが『万葉集』の「苦しくも降りくる雨か三輪が崎佐野の渡に家もあらなくに」の本歌取りであることは、よく知られている。定家は万葉の俗を雅にひっくり返し、それをまた宗因がひっくり返してみせた。凡手のよくするところではあるまい。(清水哲男)




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