February 122003
春一番縁の下より矮鶏のとき
半谷智乗
季 語は「春一番」。立春後の強い南風を言うが、元来は壱岐の漁師の用語だったという説。なるほど、風と生活が結びついた仕事ならではの言葉だ。それがいつしか海風と切り離されて使われるようになったのは、どこかの新聞が現在の意味で書いて以来というのが有力な説。マスコミおそるべし。したがって、この季語は比較的新しいものだ。句は、強い風が吹いているので、吹き飛ばされかねない小さな体の「矮鶏(ちゃぼ)」は、「縁の下」にもぐってしまった。でも、かくれながらも、そこは雄鶏らしく勇ましそうに「とき」を告げているというのである。実景としては見えていない矮鶏の愛らしさが伝わってきて、微笑を誘われる。子供のころに矮鶏を飼ってほしいと親にせがんだ記憶があるが、飼ってもらえなかった。他の鶏たちとは違い、卵も売れなければ肉食にもならない。生活の足しにならなかったからだ。あくまでも愛がん用というわけで、飼っている家を思い出すと、みな比較的裕福だった。最近ではとんと見かけないけれど、動物園などにはいるらしい。狭山市立智光山公園こども動物園のサイトから、矮鶏の解説を引いておく。図版も。「江戸時代初期、ベトナムの占域(チャンバ)より渡来したことから、「チャボ(矮鶏)」と名付けられました。小さい体、短い脚など、どこか品位のある可愛らしさは世界的に人気が高く、各国で『チャボクラブ』などの愛好団体が結成されています。また、日本鶏で最も内種が多く、現在25種に達しています」。『俳諧歳時記・春』(1968・新潮文庫)所載。(清水哲男)
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