週末は松本(長野県)。昔、一度行ったところだが、何をしに行ったのか思い出せない。




2003ソスN2ソスソス25ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 2522003

 仮の世をくしゃみの真杉花粉

                           汎 馨子

京あたりでも、そろそろ「杉花粉」が飛びはじめる。私の番組でも、来週から情報を入れることにした。幸い、私は花粉症にかからずに来たけれど、周囲では年々発症する人が増えているようなので、油断がならない。ひどい人の症状は、見ているだけで、こちらも苦しくなってくるほどだ。これからの季節、保健所は「外出を避けるように」と言うが、避けられるものなら、言われなくたって誰だって避けるさ。インフルエンザ流行のときにも同じことを言う。どうも保健所というところは、掲句ではないけれど、この世を「仮」と思い定めているようだ。さて、句の「真」は「まこと」と読む。この世を「仮」と思い定めてはいるものの、止めようにも止められない「くしゃみ」が、その強固な観念をもあっさりと裏切ってしまう。身体の調子が精神のそれを崩すという現象が、すなわち病気の一面であるわけだが、それも「くしゃみ」ごときにやられてしまうのだから、花粉症とは口惜しい病気だ。病状がまず「くしゃみ」となって現れるがゆえに、句は余計にアイロニカルに響いてくる。軽そうに見えて、しかし決して軽くはない苦い一句だ。お大事に。『未完童話』(2002)所収。(清水哲男)


February 2422003

 やはらかに裾出して着る春のシャツ

                           土肥あき子

意は明瞭。変哲もない句と言えばそれまでだが、「やはらかに」と「春」の付き過ぎを承知の上での作句だろう。付き過ぎが、かえって春を喜ぶ気分を上手に増幅している。そこらへんに、作者のセンスの良さを感じさせられた。男だと、なかなかこうは作れない。よほどの洒落男なら別だけれど、基本的に男の服装は「着たきり雀」に近いからだ。いかにスーツやネクタイを取っ換え引っ換えしようが、服の着方にまでは、そんなにバリエーションがあるわけじゃない。冠婚葬祭の服装のあり方からはじまるドレスコード的に言っても、女性のほうが、コードの種類ははるかに豊富である。これにはもとより、歴史的社会的なさまざまな要因がからんでくるわけだ。思い出したが、いわゆる「裾出しルック」が流行しはじめたころに、こんな笑い話が本当にあった。会社の応接室に通された中年のおじさんが、お茶を入れてくれた女性の裾が出ていることに気づき、見かねてタイミングを見計らい、小声でそっとささやいた。「出てますよ」。言った途端に、彼女は憤然として、しかし小声でささやき返したという。「流行ってるんです、いま」。当時はシャツまでは下着という感覚が一般的だったので、おじさんが見かねた気持ちもよくわかる。このエピソードに触れて以来、私は女性がどんな服装や着方をしていようとも、「流行ってるんだな、いま」と思うことに決めたのだった。俳誌「鹿火屋」(2003年1月号)所載。(清水哲男)


February 2322003

 春愁や大旋回のグライダー

                           宮嵜 亀

ははなやかな季節だが、その反面、いずれの季節にもない寂しさに誘われる。歳時記で「春愁(しゅんしゅう)」の説明を読むと、たいていこんなふうに書いてある。この微妙な心象風景が季語として定着しているということは、春愁は誰にでも起きることであるのだろうし、たとえ今の自分に起きていなくても、他人の春愁に納得はできるということなのだろう。考えてみれば、不思議な季語だ。春愁なんて言葉を知る以前から、私は春先になると、どうもいけなかった。いわれなき、よるべなき寂しさに襲われては、苦しい時間を過ごすことが多かった。自分では完全に病気だと思っていたけれど、この季語を知ってからは、自分だけではないのかもしれないと気を取り直し、少しは楽になったような気がしている。だとしても、いわれなき寂しさにとらわれるだなんて、やはり一種の病気には違いないだろう。どなたか、専門家のご意見を切にうかがいたい。さて、掲句はそんなやりきれない状態に陥った作者が、大空を悠々と旋回するグライダーを見やっている図だ。春愁の不健康と「大旋回のグライダー」の健康とのミスマッチが、面白い効果をあげている。そのあたりを初手からねらった作句であったとしても、ことさらに企んだ形跡は残されていない。めったに見られないグライダーの飛行を持ちだしてはいても、少しも嫌みが感じられないのは、作者がよほどこの「病気」と親しいからだろう。親しくないと、一見突飛な取り合わせに仕立てておいて、実は突飛ではないところに落としこむ微妙なセンスは発揮できないと見た。なお、作者の名前「亀」は本名で「ひさし」と読む。『未来書房』(2003)所収。(清水哲男)




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