無力であろうが小声であろうが、たとえはじまっても「止めろ」と言い続けるしかない。




2003ソスN3ソスソス19ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

March 1932003

 揚雲雀二本松少年隊ありき

                           川崎展宏

語は「揚雲雀(あげひばり)」で春。鳴きながら、雲雀がどこまでも真っすぐに上がっていく。のどかな雰囲気のなかで、作者はかつてこの地(現在の福島県二本松市)に戦争(戊辰戦争)があり、子どもたちまでもが戦って死んだ史実を思っている。この種の明暗の対比は、俳句ではよく見られる手法だ。掲句の場合は「明」を天に舞い上がる雲雀とすることで、死んだ子どもらの魂が共に昇華していくようにとの祈りに重ね合わせている。戊辰戦争での「少年隊」といえば、会津の「白虎隊」がよく知られているが、彼らの死は自刃によるものであった。対して「二本松少年隊」は、戦って死んだ。戦死である。いずれにしても悲劇には違いないけれど、二本松の場合には、十二、三歳の子どもまでが何人も加わっていたので、より以上のやりきれなさが残る。鳥羽伏見で勝利を収めた薩長の新政府軍は、東北へ進撃。奥羽越列藩同盟に名前を連ねた二本松藩も、当然迎え撃つことになるわけだが、もはや城を守ろうにも兵力がなかった。それまでに東北各地の戦線の応援のために、主力を出すことを余儀なくされていたからだ。そこで藩は、城下に残っていた十二歳から十七歳の志願した少年六十余名を集めて、対抗させたのである。まさに、大人と子どもの戦いだった。戦闘は、わずか二時間ほどで決着がついたと言われている。『観音』(1982)所収。(清水哲男)


March 1832003

 四人家族の二人は子ども野に遊ぶ

                           大串 章

語は「野に遊ぶ(野遊び)」で春。これからの季節、近所の井の頭公園あたりでは、こんな家族連れのピクニック姿をよく見かけるようになる。若い両親と幼い子どもたち。「四人家族」ならば、たいていは「二人は子ども」だ。当たり前の話だけれど、あらためてこうして文字にしたり、口に出してみると、家族という単位がくっきりと浮かび上がってくる。浮かび上がると、「そういえば、我が家もそうだった。こんな時期もあったなあ」と、見ず知らずの四人家族にシンパシーを感じてしまう。通りすがりの単なる点景が、ぐんと身近なものになる。ここらへんが俳句の妙で、詠まれている当たり前のことが、当たり前以上のことをささやきはじめるのだ。私のところも四人家族。ご多分に漏れず、子どもたちが小さかったころには、「野遊び」なんて高尚なものではなかったが、あちこちとよく出かけてたっけ。その子どもの小さいほうが、きのう、人並みの袴姿で卒業した。なんだか知らないけれど、ついに「ジ・エンド」という感じである。もはや、家族四人で出かけることもないだろうな。まことに遅きに失した感慨だが、掲句に接して、そんなよしなしごとまで思ってしまった。この若い家族に、幸あれ。俳誌「百鳥」(2001年4月号)所載。(清水哲男)


March 1732003

 山茱萸の花を電車の高速度

                           糸 大八

山茱萸
語は「山茱萸(さんしゅゆ)の花」で春。別名を「春黄金花(はるこがねばな)」と言い、黄色い小花が球状に集まって咲く。いまごろ、満開のところが多いだろう。作者は、車中の人だ。沿線に山茱萸の群生している場所を知っていて、毎年、開花を心待ちにしている。もう咲くころだと、あらかじめ方角を見定めていたら、果たして咲いていた。いきなり、黄色いかたまりが目に飛び込んできた。が、それも束の間のこと、あっという間に視界から消え去ってしまった。そこで作者は、あらためて「電車の高速度」を感じたというのである。一瞬の出来事を詠むことで、巧みに現代的な季節感を表出している。山茱萸ではないが、東京のJR中央線の東中野駅近辺の土手には、春になるとたくさんの菜の花が咲く。サラリーマン時代には毎春、これが楽しみだった。東京駅方向に乗ると左手に群生していて、数秒間、黄色のかたまりが連なって見える。土手は線路と近接しているため、まさに黄色いかたまりとしか見えない。で、かたまりが見えた後は、なんとなく車内の雰囲気が暖かくなるのだった。桜が咲くと、今度は右側の市ケ谷あたりの土手に目をやることになる。こちらは線路から距離があるので、咲いている様子がよくわかる。それどころか、土手に寝そべっている人たちの姿までもが、よく見えるのだ。最近はめったに電車には乗らないけれど、こういう句を読むと、衝動的に乗ってみたくなる。「俳句研究」(2002年6月号)所載。山茱萸の写真は、群馬大学社会情報学部・青木繁伸氏撮影。(清水哲男)




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