おどろおどろしいナレーションには辟易する。「電気紙芝居」とはよく言ったものだ。




2003ソスN3ソスソス24ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

March 2432003

 種痘日の教師を淡く記憶せり

                           藤田湘子

語は「種痘(しゅとう)」で春。天然痘にかかるのを防ぐための予防接種だ。生後一年以内、小学校入学前六か月以内、同卒業前六か月以内の接種が、法律によって義務づけられていた。揚句の「種痘日」は、入学を間近にした接種日だろう。会場の教室には医者や看護婦とは別に、当然もうクラス分けも決まっている頃なので、それぞれ担任の「教師」も立ちあっていたはずだ。つまり、生まれてはじめてセンセイなる存在を身近にする機会だったのだから、感受性の強い子には印象深い日であったにちがいない。具体的にはよく覚えていなくても、センセイの雰囲気などは「淡く記憶」している。懐かしくも、もどかしい遠い春の日の記憶である。私は鈍感なのか、六年生のときの記憶もない。が、この句に接して、入学前後の他のことは、やはりかすかながら思い出させてもらった。天然痘の根絶をWHOが宣言したのは、1980年。その四年前から、日本では副反応が問題化して、法律は生きていたけれど、事実上の接種は中止されている。したがって、新しい歳時記には「種痘」の項目はない。また、種痘の跡は二の腕に残るから、いくら若ぶっても、腕を見られたらおしまいですぞ(笑)。『黒』(1987)所収。(清水哲男)


March 2332003

 はこべ挿す模型の小鳥慰めて

                           堀口星眠

語は「はこべ(繁縷)」で春。春の七草の一つとして知られる。が、案外、具体的に名前と実物が一致しない人は多いようだ。そんじょそこらに沢山自生しているにもかかわらず、皮肉なことに、かえってきちんと名前を覚えられない宿命にある草だ。それはともかく、はこべは小鳥の好物だそうである。それを知っている作者は、淋しそうに見えた「模型の小鳥」に、本物の餌を与えてやった。本物の鳥として扱ってやった。なんという優しい心遣いだろうか。この句を読む読者のすべてが、作者の優しさに共感し微笑するだろう。なぜならば、読者自身にもそうした優しさがあり、思い当たるところがあるからだと思う。掲句の世界は、ここですぐれて叙情的に完結する。しかしながら……と、私はすぐに余計なことを考える。悪癖だ。句は完結しても、これからの作者はもとより、読者の人生もまたしばらくは完結しない。完結しないから、掲句の優しさを持つすべての人が、すべて優しい気持ちを保ちながら生きていくわけではない。保とうとしても、そうはいかない外圧を受ける場合もあるだろうし、みずからの野望で優しさを崩す場合もあるだろう。いや、こんなに大袈裟に言うこともない。日ごろの私の心情を、さっとなぞってみるだけで十分だ。永遠の優しさは神のみに固有のものであり、その神を造ったのは他ならぬ人間である。だから、ときどき人は神に憧れて、神よりもよほど非合理的に優しくふるまったりもするのだろう。「俳句研究」(2003年4月号)所載。(清水哲男)


March 2232003

 蝌蚪生れて月のさざなみ広げたる

                           峯尾文世

語は「蝌蚪(かと)」で春。蝌も蚪も杓のかたちをした生き物で、蛙の幼生の「オタマジャクシ」のことを言う。さて、いきなり余談になるが、井の頭自然文化園の分園の水生物館で、その名も「水辺の幼稚園」という展示がはじまった。オタマジャクシやメダカ、とんぼの幼虫・ヤゴなどを見ることができる。「水辺の幼稚園」とは楽しいネーミングだけれど、ああ、こうした生き物も、ついに入場料を払って見る時代になったのかと、ちょっと悲しい気分だ。それも、動物園の象や犀などと同じように、本来の環境とは切り離された姿でしか見ることはできないのである。利点は一点、自然環境のなかにいるときよりも格段によく見えることだ。そういうふうに作られた施設だから、それはそれとしても、格段によく見えることで、かえって見えなくなってしまう部分もまた、格段に大きいだろう。たとえば、掲句のような見事に美しい光景は、この種の施設で見ることはできない。春満月の夜、月を写した水面にかすかな「さざなみ」が立っている。これはきっと、いま次から次へと生れている「蝌蚪」たちが立てているのであり、水輪を少しずつ「広げ」ているのだと、作者は想像したのだった。あくまでも想像であり、現実に「蝌蚪」が見えているわけではないけれど、しかしこの想像の目は、やはりちゃんと見ていることになるのだ。「やはり野におけレンゲソウ」。こんなことわざまで思い出してしまった。『微香性(HONOKA)』(2002)所収。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます