とうとう、春の甲子園を一試合も見なかった。こんなことって、何年ぶりだろうか。




2003ソスN4ソスソス4ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

April 0442003

 山国を一日出でず春の雲

                           小島 健

くせくと働いた職場を離れてみると、見えてくることがたくさんある。あながち、年齢のせいだけではないと思われる。正直なところ、今はなんだか小学生のころに戻ったような気分なのだ。世間知らずで、好奇心のみ旺盛だったあの時代と、さほど変わらない自分が、まず見えてきた。大人になってからは、いっぱし世間を知ったような顔をして生きてきたが、そうしなければ生きられなかっただけの話で、そう簡単に世間なんてわかるはずもない。そんな心持ちで俳句を読んでいると、いままでならなかなか食指が動かなかったような句が、妙に味わい深く感じられる。掲句もその一つで、このゆったりした時間感覚表現を、素直に凄いなあと思う。あくせくとしていた間は、こうした時間の感じ方は皆無と言ってよく、したがって「呑気な句だな」くらいにしか思えなかったろう。作者については、句集の著者略歴に書かれている以外のことは何も知らない。私より、若干年下の方である。私が感銘を受けたのは、こうした時間感覚を日常感覚として十分に身につけておられるからこそ、句が成ったというところだ。付け焼き刃の時間感覚では、絶対にこのようには詠めません。小学生時代を山国に暮らした私には、実感的にも郷愁的にも、まことにリアリティのある佳作だと写った。寝ころんで、雲を見ているのが好きな子供だったことを思い出す。『木の実』(2002)所収。(清水哲男)


April 0342003

 花冷の百人町といふところ

                           草間時彦

古屋などにも「百人町」の地名はあるが、前書に「俳句文学館成る」とあるから、東京は新宿区の百人町だ。JR山手線と中央線に挟まれた一帯で、新宿から電車で二分ほど。戦前は、戸山ケ原と呼ばれていた淋しい場所だったという。町名の由来は、寛永年間に幕府鉄砲百人組が近辺に居住していたことから。その名のとおり百人を一組とする鉄砲隊で、江戸には四組あり、この町には伊賀組の同心屋敷があった。さて、現代の百人町を詠むのはたいへんに難しい。というのも、あまりにも雑然とした構造の町だからである。町を象徴するような建物やモニュメントもなければ、とりたてた名産品があるわけでもない。俳句愛好者なら、それこそ俳句文学館を思い浮かべるかもしれないけれど、地元の人の大半は、何のための建物なのかも知らないのではあるまいか。要するに、つかみどころがないのである。掲句は、そんなつかみどころのなさを、そのまま句にしている。「百人町といふところ」は、どんなところなのか。それは、読者におまかせだと言っている。だから逆に「花冷(え)」という漠然たる情趣には、似合う町だと言えようか。「花冷(え)」の「花」はむろん桜だが、この町には実は「つつじ」の花のほうが多い。百人組の給料は安く、彼らは遊んでいる土地を分け合って、内職に「つつじ」を栽培したのだという。その名残が、いまだに残っているというわけだ。ちなみに、俳句文学館の創立は1976年(昭和五十一年)。作者は俳人協会事務局長として、設立運動に専従で奔走した。『朝粥』(1979)所収。(清水哲男)


April 0242003

 百年のグリコ快走さくら咲く

                           泉田秋硯

京の桜は、この週末にかけてが見ごろ。ついこのあいだ咲きはじめたかと思ったら、あっという間に満開になってしまった。掲句は、桜前線がぐんぐん北上してくる速さを、「グリコ」のランナーのスピードに例えていて愉快。稚気、愛すべし。ただし「百年」はちょいとオーバーで、グリコの歴史は八十年ほど(1922年発売)であるが、ま、とにかく桜前線もグリコの青年も、昔から速いことになっているから、これでいいのだ。ところで、江崎グリコのHPを見ていたら、有名なコピー「一粒三百メートル」の解説が載っていた。「グリコ(キャラメル)には、実際に一粒で300メートル走ることのできるエネルギーが含まれています。グリコ一粒は15.4kcalです。身長165cm、体重55kgの人が分速160mで走ると、1分間に使うエネルギーは8.21kcalになります。つまりグリコ一粒で1.88分、約300m走れることになります」。「なるほどねえ」と感心するにはトシをとりすぎてしまったけれど、ポパイのほうれん草とは違って、甘いものを健康に結びつけて商売にするのは大変だっただろう。そこで「エネルギー」の補給に気がついたのは、まことに炯眼と言うべきで、それこそ百年の昔から、いまだに私たちは「エネルギー」を求めて四苦八苦、右往左往、国家的には戦争までしでかしている始末だ。『鳥への進化』(2003)所収。(清水哲男)




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