譁ッ豕「蝨貞・ウ縺ョ句

April 1542003

 山吹や川よりあがる雫かな

                           斯波園女

語は「山吹」で春。東京では、いまが盛りだ。園女(そのめ)は江戸期の人、蕉門。前書に「六田渡(むだのわたし)」とあるから、奈良の吉野川下流域での句である。さて、この句はちょっと分かりにくい。ふつう「渡」というと、誰もが渡し舟を想像するだろう。「舟が出るぞ〜」の、あれである。しかし、渡し舟の「雫(しずく)」が「川よりあがる」図には無理がある。では、何の雫だろうか。急流なので、岩を噛んだ水が飛び散り、雫となって岸辺に「あが」っている図だろうか。でも、それならわざわざ前書をつけることもない。正解は「馬」である。万葉集に「馬並めてみ吉野川を見まく欲りうち越え来てぞ瀧に遊びつる」の歌も見えるように、大昔から川は馬でも渡っていた。雫の主が馬と分かると、句の情景はたちまち鮮かに浮かびあがってくる。川瀬を勢いよく渡ってきた馬が岸にあがり、びしょ濡れの胴体から飛び散る雫が、折しも満開の黄金色の山吹にざあっとかかった情景だ。まことに力強くダイナミックな詠みぷりで、春光に輝く周辺の景色までもが彷彿としてくるではないか。この句は、与謝蕪村編、千代尼序、田女跋という豪華メンバーによるアンソロジー『玉藻集』(1774年・安永三年刊)に収載されている。(清水哲男)




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