なぜ松井の打席のみ放映するのか。せめて前後の模様だけでも伝えてもらいたい。




2003ソスN4ソスソス20ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

April 2042003

 朧夜のポストに手首まで入るる

                           村上喜代子

語は「朧夜(おぼろよ)」で春。朧月夜の略である。実際、数日前に、私も同じ体験をした。朧夜だからといって、べつに平常心を失っているとも思わなかったけれど、投函するときになんだか急に手元が頼りなく思え、ぐうっとポストに「手首まで」入れて、確かに投函したことを確認したのだった。届かないと相手に迷惑のかかりそうな郵便物だっただけに、慎重を期したというところだが、普段だとすとんと入れて平気でいるのに、これはやっぱり朧夜のせいだったのかしらん。暖かくて妙に気分が良いと、かえって人は普段よりも慎重になるときがあるのかもしれない。このように郵便物だと手応えを確かめられるが、昨今のファクシミリやメールだと、こうはいかないので不安になることがある。本当に届くのだろうか。ふと疑ってしまうと、確認のしようもないので苛々する。とくにファクシミリは、相手の手元に手紙のように物理的具体的に送信内容が届くはずなので、逆に心配の度合が強いのだ。メールならば泡と消えても、もともとが泡みたいな通信手段だから、仕方ないとあきらめがつく。でも、プロセスはともかくとして、ファクシミリは限りなく手紙に近い状態でのやりとりだ。書留で出すわけにもいかないし、届いたかどうかを、あらためて電話で確認することもしばしばである(苦笑)。『つくづくし』(2001)所収。(清水哲男)


April 1942003

 桑の香にいとこ同志の哀しさよ

                           中北綾子

語は「桑」で春。「同志」は「同士」の誤記だろう。句の背景には、養蚕が盛んだった頃の農村風景がある。二人して桑を摘んでいるのか、あるいは桑畑の近くを歩いているのか。相手の「いとこ」は異性である。小さい頃には何の屈託もない遊び仲間だったけれど、異性であることを意識しはじめると、何かにつけてぎごちなくなってくる。口数も減ってくる。相手に好意を抱いているのだから、なおさらだ。そんな気持ちを「哀しさよ」と言いとめた。「悲しさ」と「愛しさ」が入り交じった、なんとも甘酸っぱい空間が広がってくる句だ。これも、美しい青春の一齣である。この句を読んでふっと思い出したのが、クロード・シャブロルの映画『LES COUSINS』(1959)だった。こちらは男同士で、パリに住むぐうたら学生(ジャン=クロード・ブリアリ)のところに、純情で勉強家の従兄弟(ジェラール・ブラン)が、田舎から頼って出てくるという設定だ。この正反対の性格の二人に一人の女(ジュリエット・メニエル)がからみ、やがて悲劇的な結末を迎えることになる。学生時代に見て感動し、めったに買わないパンフレットまで買ったので、よく覚えている。血の濃さゆえに、二人の反発しあう気持ちも強い。「従兄弟の味は鴨の味」と言うけれど、ひとたび反目しあったら、他人同士の関係では考えられないほどに、すさまじいことになる。血の繋がっていることの哀しさを、迫力満点に描いた傑作だった。『現代俳句歳時記』(1989・千曲秀版社)所載。(清水哲男)


April 1842003

 チューリップ喜びだけを持つてゐる

                           細見綾子

語「チューリップ」に名句なし。そう思っている。日本人好みの微妙な陰影が感じられない花だからだ。造花に近い感じがする。掲句は、そんなチューリップの特長を逆手に取っている。自註に曰く。「春咲く花はみな明るいけれども、中でもチューリップは明るい。少しも陰影を伴わない。喜びだけを持っている。そういう姿である。人間世界では喜びは深い陰影を背負うことが多くて、谷間の稀れな日ざしのようなものだと私は考えているのだが、チューリップはちがう。曽て暗さを知らないものである。喜びそのもの、露わにもそうである。私はこの花が咲くと、胸襟を開く思いがする。わが陰影の中にチューリップの喜びが灯る」。折しも、我が家の近くにある小学校のチューリップが満開だ。保育園や幼稚園にも、この花が多く植えられるのは、まだ人生の翳りを知らない子供たちによく似合うからだろうか。そう言えば、高校や大学ではあまり見かけない花だ。ところで、大人である掲句の作者はチューリップに「胸襟を開く思いがする」と述べている。ということは、むろん日ごろの心は鬱屈しているというわけだ。花そのものに陰影がないからこそ、花と作者との間に陰影が生まれた。名句とは思わないが、この着眼は捨てがたい。『桃は八重』(1942)所収。(清水哲男)




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