July 242003
葛桜雨つよくなるばかりかな
三宅応人
季 語は「葛桜(くずざくら)」で夏。当歳時記では「葛饅頭」の項目に入れておく。和菓子にうといので間違っているかもしれないが、一般的に葛饅頭を桜の葉で包んだものを葛桜と言うようだ。昔は東京名物だったという。「葛ざくら東京に帰り来しと思ふ」(小坂順子)。掲句の作者は小旅行の途中でもあろうか。折悪しくも雨模様の昼下り。一休みしようと入った店で、季節感の豊かな葛桜を注文したのだが、表を見るとだんだん雨は「つよくなるばかり」である。葛桜は見た目にも涼味を誘う菓子だから、すっきり晴れていてこその味なのに、降りこめられての葛桜はいわばミスマッチ。いっそう情けないような気分になって、降りしきる雨を恨めしそうに見やっている。さて、この店を出てからどうしようか……。私は雨男なので、似たようなことはしょっちゅう体験してきた。もはや、情けないとも感じなくなってしまった(苦笑)。今年の梅雨は長い。会社の暑中休暇を早めに取ったサラリーマンのなかには、こんなメにあっている人も多いのではなかろうか。逆に言えば、葛桜などを商っている人たちはもちろん、夏物商戦をあてこんでいた業者は大変である。東京の週間天気予報を見ると、晴れマークは来週の月曜日以降にしか出ていない。梅雨が明けると言われる雷も、鳴る気配すらない。やれやれ、である。なお、写真は「磯子風月堂」のHPより借用しました。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)
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