July 242004
学生食堂冷し中華は売り切れて
平木智恵子
季語は「冷し中華」で夏。上手な句とは言えないが、「学生食堂」の雰囲気はよく伝わってくる。昼時は混雑しているし、冷房もそんなには効いていない。あそこは食事を楽しむなどは二の次で、とりあえず空きっ腹を満たすためだけにあるような施設である。だから、簡便なメニューが好まれる理屈で、冷たくて安くて早く食べられる「冷し中華」などは人気があるのだろう。冷した麺を皿に盛り、胡瓜と錦糸卵と紅生薑をちょいちょいと乗っけて、ハイおしまい。神田の出版社に勤めていた頃は、手元不如意になると、近所の明大や中大の学生食堂に行った。この季節、冷し中華もよく食べたけれど、ときに麺がほぐれないままになっていたりして、お世辞にも美味いとは言えなかった。でも、編集者なんぞの昼食というものは学生と同じで、とにかく当面の空腹さえ免れればそれでよいというところがある。栄養士が聞いたら、目を回しそうな粗食や偏食ぶりなのだ。話はまた飛ぶけれど、知り合いの女性栄養士のお子さんが、ある日遊びにいった友だちの家から目を輝かせて帰ってきた。「お母さん、○○君ちのおにぎり、すっごく美味しかったよ」。聞いてみると、何のことはない。ごく普通のおにぎりだったのだが、彼女のおにぎりは子供の健康を考えて塩味抜きなので、その差が出たと言うわけだ。鮨屋で頑に醤油を使わないでいたら、握っていた大将に「そんなに不味そうに食わないでくれ」と叱られたのもこの人である。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)
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