桜紅葉は早い。近所にある大きな樹を見に行ったら、少しだけど紅葉がはじまっていた。




2004ソスN9ソスソス13ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 1392004

 これは何これは磯菊しづかな海

                           川崎展宏

語は「磯菊(いそぎく)」で秋。野菊の一種なので「野菊」に分類。海岸の岩地や崖などに群生する。ただし、咲くのは関東南部から静岡県御前崎の海岸あたりまでというから、名前は何となく知っていても、実物を見たことが無い人のほうが多いだろう。作者もその一人だったようで、はじめて見る花の名前を「これは何」と土地の誰かに尋ねたのである。で、すぐ返ってきた答えが「これは磯菊」だった。そうか、これが話に聞いていた磯菊か……。あらためて見つめ直す作者の周辺には、秋の「しづかな海」がどこまでもひろがっている。「これは何これは磯菊」と歯切れの良い調子で出ているだけに、一見平凡な「しづかな海」という表現が生きてくる。それまでのやや性急に畳み掛けるような調子を、大きくゆったりと受け止める効果が生まれるからだろう。そして「しづかな海」はただ波の静けさだけを言うのではなく、夏の間のにぎわいが引いて行った雰囲気を含んでいる。私は読んだ途端に、流行したトワ・エ・モアの『誰もいない海』を思い出した。♪今はもう秋 誰もいない海……。この後につづく歌詞はいただけないけれど、内藤法美の曲はけだし名曲と言ってよい。『花の歳時記・秋』(2004・講談社)所載。(清水哲男)


September 1292004

 地芝居のお軽に用や楽屋口

                           富安風生

語は「地芝居」で秋。「地」は「地ビール」の「地」。土地の芝居という意味で、土地の人々による素人芝居だ。「お軽」は言わずと知れた『仮名手本忠臣蔵』の有名な登場人物である。舞台では沈痛な顔をしていたお軽が、用事を告げにきた人と「おお、なんだなんだ」と気軽に応対しているところが、いかにも村芝居ならではの光景だ。これが「一力茶屋の場」の後だったりしたら、派手な衣装がますます芝居と現実との落差を感じさせて面白い。この稿を書いているいま、遠くから祭り太鼓の音が聞こえてくる。昨日今日と、三鷹や武蔵野など近隣八幡宮の秋祭なのだ。ひところは担ぎ手を集めるのに難渋した神輿人気も復活し、大勢の人出でにぎわうのだけれど、私などにはやはり「地芝居」の衰退は淋しいかぎり。子供の頃の秋祭最大の楽しみといえば、顔見知りの人たちが演ずる芝居であった。でも、難しい忠臣蔵なんて舞台はなかったと思う。たいていが国定忠次とか番場の忠太郎とかのいわゆるヤクザもので、まあ長谷川伸路線だったわけだが、その立ち回りは早速翌日にはチャンバラごっこに取り入れたものである。「ハナ(寄付金)の御礼申し上げまーす」。幕間には必ずこのアナウンスがあって、寄付した人たちの名前が読み上げられた。多くは地域共同体の義理で寄付していたようだが、しかし私の父親の名前は一度も読み上げられることはなかった。生活保護家庭で口惜しい思いをしたことはいろいろあるけれど、これもその一つである。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


September 1192004

 海苔巻を添へし見舞の山の柿

                           児仁井しどみ

句集より。作者は三年前に癌で亡くなっている。季語は「柿」で秋。「海苔巻『に』」ではなく「海苔巻『を』」であることに注目した。つまり、見舞の品のメインは「山の柿」であって「海苔巻」ではないのである。長期病床にある作者に、贈り手は新鮮な外気の感じられる山の幸を届けてきた。たぶん、枝葉のついたままの柿だろう。食べてもらうためというよりは、見て楽しんでもらうためだ。しかしこれからが嬉しいところで、贈り手は何の手もかけていない柿だけではぶっきらぼうに過ぎると考え、せめてもと手作りの海苔巻をいくらか添えたのだった。このときに柿は贈り手の病者に対するいたわりの表現であり、海苔巻は「これでも食べて元気を出せ」という励ましの表現とも言える。作者にはその暖かい心遣いがよくわかったので、「に」ではなく「を」と、嬉しくも素直に表現したのである。またぞろ昔話で恐縮だが、昔の見舞の品や贈答品には、しばしばこうした配慮がなされていたことを思い出す。単なる貰い物のお裾分けにしても、何か自分が手をかけたものを添えたりしたものだ。添えるものが何もないときには、口上などの言葉を添えた。なかには釣れすぎた魚を黙って突き出すように置いていく人もいたけれど、あれはあれで、その照れたような表情が立派な口上になっていたのだと思う。このぎすぎすした世の中に、まだそんな奥床しさが残っていたとは。句を読んで、しんみりと嬉しくなってしまった。『十一番川』(2004・私家版)所収。(清水哲男)




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