台風一過。昨日は久しぶりに「台風らしい台風」と感じた。被害の程度はどうだろうか。




2004ソスN10ソスソス10ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 10102004

 錵のごとくに秋雷の遠きまま

                           友岡子郷

て「錵(にえ)」とは何だろうか。「沸」とも表記する。句の成否は「錵のごとくに」の比喩にかかっているのだから、知らないと観賞できない。手元の辞書には「焼きによって日本刀の刃と地膚との境目に現れる、雲や粟(あわ)粒のような模様」と出ている。刀身を光にかざして見ると、細かいキラキラする粒が認められる。それが「錵」だ。学生時代に後輩の家に遊びにゆき、はじめて抜身の日本刀を間近に見せてもらった。父親の美術コレクションだったようだが、持ってみて、まずはその重さに驚いた。とても振り回したりはできないと思った。そして、なによりも刀身の美しさ……。息をのむようなという形容が陳腐なら、思わず居住まいをただされるとでも言うべきか。それまで胡座をかいていたのが、すうっと自然に正座してしまうほどだった。「(曇るので)息をかけないように」と言われたのにはまいったけれど、何の感想も漏らせないままに、ただただ見入ってしまったことを覚えている。掲句はそのときのことを思い出させてくれ、私にとっては遠い「秋雷」さながらに、しばし郷愁に誘われる時間を得た。自注によれば、作者は小学生のときに備前長船を叔父に見せてもらったそうで、この「遠きまま」には、距離の遠さと時間の遠さとが同時に表現されているわけだ。しかし、そうした作句事情は知らなくても、日本刀を手に取ったことがある人には、一読同感できる佳句として響いてくるだろう。『未草』(1983)所収。(清水哲男)


October 09102004

 居ながらに骨は減りつつ新牛蒡

                           柿本多映

夏に収穫する牛蒡(ごぼう)もあるが、普通は春蒔きで秋に収穫する。秋の季語として「牛蒡引く」があるので、「新牛蒡」はこの項目に入れておく。中年くらいから年齢を重ねるにつれて、その化学的な成分は変化しないが、「骨(量)」は徐々に減ってゆく。とくに女性は閉経後に急に減少するので、骨粗鬆(こつ・そしょう)症になりやすい。まさにただ生きているだけ、それだけで「居ながらに」して減ってゆくわけだ。作者はそのことを、ふと意識の上にのぼせたのだろう。だが、なにしろ減少過程それ自体は自覚されないのだから、恐いと言えば恐いし、哀れと言えば哀れでもある。他方「新牛蒡」は成長途上で生命を絶たれた生物であり、むろん骨は無いけれど、その姿は減少した骨にも似て細く筋張っており、いまの作者の意識からすると哀れな感じを受けるのだ。生命あるものと、それを絶たれたものとが相似ていることの哀れである。もっともこういう句は、このような「何が何してナントやら」的な理屈で解釈しても面白みに欠けてしまう。パッと読んで、パッと閃くイメージや感覚のなかで観賞するのが本来だと思う。余談、一つ。三鷹の明星学園で教えていたころの無着成恭が、テレビで話していた。「いまの子は、実物のゴボウを見せても何なのかわからない。キンピラゴボウなら、みんな知ってるのに」。辞書や歳時記にも、そろそろゴボウの写真が必要だ。『粛祭』(2004)所収。(清水哲男)


October 08102004

 運動会昔も今も椅子並ぶ

                           横山徒世子

語は「運動会」で秋。近所の学校の運動会を、よくのぞく。べつに知人の子や親戚の子が出ているわけでもないのに、つい徒競走スタートのピストルの音や歓声などに誘われて足が向いてしまうのだ。三十分くらい子供たちの元気な動きを見て、満足して帰ってくる。きびきびした身体の動きは、見いるだけで気持ちがすっきりする。が、掲句を読んで「はっ」と思ったことに、もしかすると私が運動会を見に行くのは、そのようなこともあるけれど、もう一つは郷愁を感じたいためかもしれないということだった。騎馬戦や棒倒しは危険なので止めようとかいった競技の変遷はあるにしても、「昔も今も椅子並ぶ」で、運動会ほどにデザインの変わらない学校行事は、他に無いのではあるまいか。入学式や卒業式のスタイルは大きく変わってしまったし、学芸会はほとんど姿を消し、遠足などもあまり遠くまでは歩かなくなった。残るは運動会のみというわけで、あの空間には誰もが子供だった頃の様子が、そのまま保存されていると言ってよいだろう。椅子の並べ方も同じなら、来賓のためのテントも同じだし、流れるマーチも昔と変わらず、運動場に引かれた白線だってそっくりだ。郷愁を誘われるのも、無理はない。この句は端的に、そのあたりの事情を述べている。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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