October 19102004

 へちま水作る気なりと触れ回る

                           立松けい

語は「へちま(糸瓜)」で秋。昔の我が家にもぶらんぶらんとなっていたが、母が「へちま水」(化粧水)を作っていたかどうかは知らない。ただ名称は知っていたので、自宅で作っている人は多かったのだろう。ネットで調べてみると、作り方はかなり面倒くさそうだ。「へちまの実をとったあと、地上から50〜60cm位のところで茎をカットして一升瓶、もしくはペットボトルの口に茎の先端を差し込み,異物が入らないようにラップ等で固定します、茎の根本に水分を十分補給して1日後くらいに回収します」……。ここまではだいたい想像がつくけれど、回収した後で今度はフィルターで濾過し、雑菌処理のために煮沸しなければならない。となると、相当に時間のかかる作業だ。加えて、腐りやすいので防腐剤をどうするかなどの問題もあるようで、普通なら「買ったほうが安い」と思うのではなかろうか。そんなへちま水を、作者は自力で作ろうと思い立った。でも、途中で挫折するかもしれない。しかし、ちゃんと作ってみたい。ならばと一計を案じたのが掲句で、友人知己に「作る気なりと触れ回る」ことによって、後に引けない状況に自分を追い込んだというわけだ。句としての出来映えよりも、そうした手の内をさらしたところが面白く、作者の人となりにも好感を持った。俳句でないと、こういうことをさらりと言うのは、案外と難しいものである。『帆船』(1998)所収。(清水哲男)




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