November 012004
駅吊りの秋物語時刻表
渡邊きさ子
このところ、私にしては珍しく旅が多いので、しばしば「時刻表」とにらめっこをしている。仕事がらみだから行楽気分にはほど遠いけれど、時刻表を見ているうちに、目的地まで以外の路線を追っていたりすることがある。時間がもう少しあれば、ちょっと先の温泉地まで足を伸ばせるのになどと、埒もないことを考える。句の時刻表は「駅吊り」だから、作者は既に旅行中なのだろう。あるいは、これから出発なのかもしれない。いずれにしても駅の時刻表を見上げて、むろん自分だけのこれからの旅程を組み立てている。で、そのうちに気がついたことには、この同じ時刻表を眺めている人には、それぞれに自分とは別の目的や事情があるということだった。つまり、それぞれの人にはそれぞれの「物語」がある……。当たり前といえば当たり前だが、あらためてそう意識してみると、駅に吊られている単なる時刻表も、いろいろな物語の発端になったり展開点であったりするわけだ。そのような不特定多数の物語をひっくるめて、「秋物語」とくくったところが美しい。この句を知った後で駅の時刻表を見上げる人は、句の良さがいわば体感できるのではあるまいか。他ならぬ私は、週末に遠出する予定があります。私なりの「秋物語」はひどく散文的になりそうですが、それでも旅は旅。いくつかの楽しいことが待っているかもしれません。『野菊野』(2004)所収。(清水哲男)
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