November 182004
口論は苦手押しくら饅頭で来い
大石悦子
季語は「押しくら饅頭」で冬。例の「押しくら饅頭押されて泣くな、泣き顔見せたら嫌われる」である。昔の子供の遊びだったわけだが、いまの子供らは、もうやらないだろう。まず、見かけたことがない。だが、言葉だけはしっかりと生きていて、いろいろな場面で使われている。さて、掲句。作者の気持ちはよくわかりますね。口ではかなわないので、力づくで「来いっ」、と……。でも、その力づくが「押しくら饅頭」というのだから、可愛らしい。男同士だったら、さしずめ「表へ出ろ」の場面だけれど、押しくら饅頭では相手が女性でも戦意喪失、へなへなとなってしまうに違いない。いさかいをユーモラスに回避するには、このテの発想に限る。考えてみれば、たしかに力は使うとしても、あれは競技でも、ましてや喧嘩の変形でもない。ただ単に身体同士をぎゅうぎゅう押し合うだけで、勝ち負けは問題外の、お互いに暖まろうという知恵が生んだ冬の遊びだろう。それでも、小さい子は揉まれるうちに息苦しくなったりして泣いたものだ。泣かれると大きい子は困るので、「泣き顔見せたら嫌われる」と牽制しながら遊んだのである。まあ、子供にとってもほんの座興程度の遊びだった。それが証拠に、「押しくら饅頭」マニアになった奴などは聞いたことがない。『耶々』(2004)所収。(清水哲男)
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