中途半端な三位一体改革。税金は上がり、地方自治体は潤わない。来るぞ、消費税増税。




2004ソスN11ソスソス28ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 28112004

 雨降つて八犬伝の里に柿

                           大串 章

存知『南総里見八犬伝』。曲亭馬琴が28年もの歳月をかけて書いた一大長編小説だ。ただ、どなたも題名はご存知なのだが、原文で読んだ人となるともはや寥々たるものだろう。かくいう私も、かつて子供向きの本で読んだにすぎない。「八犬伝の里」といえば、南房総は富山付近だろうか。普段は明るいイメージのある里に、今日は冷たい雨が降っている。雨に濡れた柿は淋しい感じのするもので、ここが八人の剣士の大活躍したところだと思うと、往時茫々の感を禁じ得ないのだ。このときに作者は、雨中に鈍く光っている柿の玉から、八剣士たちを結びつけた「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の霊玉を連想したかもしれない。強者どもが夢のあと、昔の光いま何処と、作者の感傷は少しく深まった。この小説はいわゆる勧善懲悪ものだが、江戸の人に人気があったのは、たぶんこれらの玉の出所に、まず謎めいたところがあったからだと思う。玉を持っていたのは里見氏城主の娘・伏姫で、彼女はわけあって八房という城主の愛犬と洞窟に籠った。その犬を許婚者が鉄砲で撃ち殺すのだが、既に姫は八房の気を感じて身ごもっており、彼女は許婚者に身の純潔を証明するため自害してしまう。このとき飛び散ったのが八つの玉という設定だ。すなわち、これらの玉には猟奇的な感じがつきまとう。説教小説にしては、初期設定が妖しすぎる。これなら今後どんな妖しいことが起きても不思議ではないと、当時の人々は成り行きに固唾を飲んだにちがいない。「俳句」(2004年12月号)所載。(清水哲男)


November 27112004

 訣れきて烈火をはさむ火箸かな

                           神生彩史

時記編纂の立場だけから言うと、こういう句は実に困ってしまう。季語はないので無季句にははしておくが、それでよいのかという気持ちが吹っ切れない。どう考えても、この句の季節は冬だからだ。それはともかく、激しい気合いのこもった句である。「訣(わか)れきて」が「別れきて」ではないところに注目しよう。「訣」は「永訣」などというときの「訣」だから、作者は誰かと決別してきたことがうかがえる。憤然として帰宅し、その興奮が醒めやらぬままに、囲炉裏か竃か火鉢あたりの「烈火」を「火箸」で挟んでいる。「火箸かな」の「かな」は、火箸をつかんで怒りにぶるぶると震えている作者の「手元」を想像させ、俳句ならではの表現と言えるだろう。真っ赤に熾った炭火は顔面を焼くほどに強烈だし、普段ならおっかなびっくり慎重に火箸で挟んで移し替えたりするわけだが、このときの作者はがっちりと正面から烈火に向き合っている。訣れの際の、それこそ烈火のごとき感情を引きずっているので、これぞ人の勢いというものなのだ。たぶんフィクションだとは思うけれど、激しい怒りのありようを描いて卓抜である。神生彩史はかつての新興俳句の旗手的存在であり、その新鮮な詠みぶりは同時代の多くの俳人に影響を与えた。もっと広い世界で評価されてよい「詩人」である。『深淵』(1952)所収。(清水哲男)


November 26112004

 世の中も淋しくなりぬ三の酉

                           正岡子規

日は「三の酉」。十一月酉の日の鷲神社の祭礼だ。東京台東区千束の鷲神社の市が有名だが、他の社寺でも境内に鷲神社を勧請し、この祭を行う所が多い。参道には、熊手や縁起物を売る店が立ちならぶ。三の酉のある年には火事が多いというが、十一月も終わりころになると寒さが募り、暖をとるための火を使うようになるので、火事に警戒せよという言い伝えだろう。実際、三の酉と聞くと、寒い日の思い出しかない。気象的にも寒いのだけれど、社会的にも寒々としてくる。商店街などでは年の暮れモードに入り、仕事も年末年始を見据えてあわただしさが増し、句のようになんとなく「淋しく」なってくる。「世の中」は、気象的な条件を含んだ人間社会と解すべきだろう。どうという句ではないようにも思えるが、三の酉のころの人々の心持ちがよく出ていると思う。二十代の終わりのころに入り浸っていた新宿の酒場「びきたん」は、花園神社に近かった。ママのしいちゃんは毎年熊手を買いに行くのだが、店を開けてから客が増えてくると、なかの何人かを誘い、あとの客に留守を頼んで出かけていた。そんなときに私は、誘われても行かずに、いつも留守番役を志願したものだ。寒風のなかなんぞに出かけたら、せっかくの酔いが醒めるからというのが理由だった。思えば、若いのに「淋しい」男だったな、私は。『子規句集』(1993・岩波文庫)所収。(清水哲男)




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