寒くなると「月の砂漠」のメロディを鳴らしてアイスクリーム売りの車がまわってくる。




2004ソスN11ソスソス29ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 29112004

 はしはしと杉燃えておりスキー宿

                           秋尾 敏

語は「スキー」で冬。火は冬のご馳走だ。雪の舞い散るなかを宿に着くと、大きな囲炉裏に威勢良く炎が上がっている。それだけでもう、誰の顔もパッと輝く。都会人のスキーの楽しさとは、こういうことも含んだそれだろう。句の眼目は「はしはしと」の擬声語にある。はじめて目にした言葉だが、語感からすると「杉」の「枝葉」の燃える様子を言っているのではなかろうか。幹の部分だと、こうは言えまい。子供のころの我が家の暖房は囲炉裏だったので、杉の枝葉もしばしば燃やした。その経験から言えば、これはまだ完全に枯れた枝葉ではなく、葉にはまだ少し青いところも残っているものだ。つまり、やや湿り気を含んでいる。火のなかに放り込むと、しばらくの間じゅうじゅうと鳴っていて、そのうちにぱちぱちと燃え上がってくる。「はしはしと」は、おそらく「じゅうじゅう」から「ぱちぱち」に移っていく過程の音だと思う。燃やす枝葉は頻繁に補給されるので、「はしはしと」は「じゅうじゅう」や「ぱちぱち」の音を抑えて、トータル的にはそのように聞こえるのである。さらに言えば音だけではなくて、杉葉の燃える独特の視覚的な様子も込められている。いつかまた囲炉裏端にある機会があったら、「はしはしと」燃える杉の様子をじっくりと楽しんでみたい。「俳句」(2004年12月号)所載。(清水哲男)


November 28112004

 雨降つて八犬伝の里に柿

                           大串 章

存知『南総里見八犬伝』。曲亭馬琴が28年もの歳月をかけて書いた一大長編小説だ。ただ、どなたも題名はご存知なのだが、原文で読んだ人となるともはや寥々たるものだろう。かくいう私も、かつて子供向きの本で読んだにすぎない。「八犬伝の里」といえば、南房総は富山付近だろうか。普段は明るいイメージのある里に、今日は冷たい雨が降っている。雨に濡れた柿は淋しい感じのするもので、ここが八人の剣士の大活躍したところだと思うと、往時茫々の感を禁じ得ないのだ。このときに作者は、雨中に鈍く光っている柿の玉から、八剣士たちを結びつけた「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の霊玉を連想したかもしれない。強者どもが夢のあと、昔の光いま何処と、作者の感傷は少しく深まった。この小説はいわゆる勧善懲悪ものだが、江戸の人に人気があったのは、たぶんこれらの玉の出所に、まず謎めいたところがあったからだと思う。玉を持っていたのは里見氏城主の娘・伏姫で、彼女はわけあって八房という城主の愛犬と洞窟に籠った。その犬を許婚者が鉄砲で撃ち殺すのだが、既に姫は八房の気を感じて身ごもっており、彼女は許婚者に身の純潔を証明するため自害してしまう。このとき飛び散ったのが八つの玉という設定だ。すなわち、これらの玉には猟奇的な感じがつきまとう。説教小説にしては、初期設定が妖しすぎる。これなら今後どんな妖しいことが起きても不思議ではないと、当時の人々は成り行きに固唾を飲んだにちがいない。「俳句」(2004年12月号)所載。(清水哲男)


November 27112004

 訣れきて烈火をはさむ火箸かな

                           神生彩史

時記編纂の立場だけから言うと、こういう句は実に困ってしまう。季語はないので無季句にははしておくが、それでよいのかという気持ちが吹っ切れない。どう考えても、この句の季節は冬だからだ。それはともかく、激しい気合いのこもった句である。「訣(わか)れきて」が「別れきて」ではないところに注目しよう。「訣」は「永訣」などというときの「訣」だから、作者は誰かと決別してきたことがうかがえる。憤然として帰宅し、その興奮が醒めやらぬままに、囲炉裏か竃か火鉢あたりの「烈火」を「火箸」で挟んでいる。「火箸かな」の「かな」は、火箸をつかんで怒りにぶるぶると震えている作者の「手元」を想像させ、俳句ならではの表現と言えるだろう。真っ赤に熾った炭火は顔面を焼くほどに強烈だし、普段ならおっかなびっくり慎重に火箸で挟んで移し替えたりするわけだが、このときの作者はがっちりと正面から烈火に向き合っている。訣れの際の、それこそ烈火のごとき感情を引きずっているので、これぞ人の勢いというものなのだ。たぶんフィクションだとは思うけれど、激しい怒りのありようを描いて卓抜である。神生彩史はかつての新興俳句の旗手的存在であり、その新鮮な詠みぶりは同時代の多くの俳人に影響を与えた。もっと広い世界で評価されてよい「詩人」である。『深淵』(1952)所収。(清水哲男)




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