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2004ソスN12ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 01122004

 植木屋の妻の訃知りぬ十二月

                           沢木欣一

頃は寡黙な出入りの「植木屋」が、珍しく話しかけてきた。「妻の訃(ふ)」を告げて、おそらくは年末年始の挨拶を遠慮させてもらうと言ったのだろう。「十二月」ならではの光景である。作者も彼女にはいささかの面識があり、驚いて問い直すと、今年亡くなったとはいっても、もうだいぶ前のことだったらしい。それを黙ったままで普段通りに仕事にやってきていた彼の姿が、目に浮かぶようではないか。思い返してみれば、長年のつきあいである。お互いに歳をとったものだなと、そのことにも作者はあらためて感じ入っているのだ。シチュエーションは違うけれど、例年十二月になると、多くの人が何人かの訃報を受け取ることになる。「喪中につき」年末年始の欠礼を知らせる葉書が届くからだ。既に私のところにも何葉か届いていて、同世代の友人からのものだと、亡くなった方が親の場合、享年は八十代後半以上の方々ばかり。葉書を見ながらずいぶんと長生きされたなとは思うのだが、この方々はみなかつての戦争で苦労された世代である。詩人の北村太郎が「長生きしたからといって大往生などと言うな。死んだことも無いくせして……」と言ったように、とくにこの世代の死については、安易にそんなことは言えないだろう。楽しかるべき青春も知らずに、ただ苦労するためだけに生まれてきたような人たちだからである。『新日本大歳時記・冬』(1999・講談社)所載。(清水哲男)


November 30112004

 綿菓子の糸の先まで小春巻く

                           高井敏江

語は「小春」で冬。陰暦十月の異称で、まるで春のような穏やかな日和のつづくことから、小さな春と呼ばれるようになった。そんな日和の様子を捉えて、掲句は実に巧みだ。縁日か何かで綿菓子(わたあめ)を売っている。機械でくるくると巻かれていくのが、小春そのもののように、作者は感じている。それも、細い「糸の先まで」巻かれていくと言うのである。いかにも柔らかく繊細な小春のありようが、綿菓子との取り合わせにぴったりと溶け合っているではないか。こんな感受性を持っていたならば、さぞかし日常的にいろいろな発見ができて楽しいだろう。羨ましい限りである。またぞろ貧乏話で恐縮だが、私は子供のときに綿菓子を食べたことがなかった。村祭りの屋台には出ていたが、高すぎて買えなかった。いつかは食べてみたいと思いながら、実際に口にしたのは三十歳を過ぎてからである。子供がよちよち歩きをはじめたころに、町のお祭りで子供のために買うふりをしながら、実は自分のために手にしたのだった。どきどきしながら口にしたことを覚えている。正直言って美味いとは思わなかったけれど、持って歩いているだけで華やいだ気分になれることに満足した。どこのどなたの発明かは知らないが、あれはたいした発明である。さっき綿菓子機の値段を調べてみたら、ちょっとしたものでも十万円以上はしていた。一般家庭で、気軽に小春を巻くわけにはいかないようだ。『新版俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)


November 29112004

 はしはしと杉燃えておりスキー宿

                           秋尾 敏

語は「スキー」で冬。火は冬のご馳走だ。雪の舞い散るなかを宿に着くと、大きな囲炉裏に威勢良く炎が上がっている。それだけでもう、誰の顔もパッと輝く。都会人のスキーの楽しさとは、こういうことも含んだそれだろう。句の眼目は「はしはしと」の擬声語にある。はじめて目にした言葉だが、語感からすると「杉」の「枝葉」の燃える様子を言っているのではなかろうか。幹の部分だと、こうは言えまい。子供のころの我が家の暖房は囲炉裏だったので、杉の枝葉もしばしば燃やした。その経験から言えば、これはまだ完全に枯れた枝葉ではなく、葉にはまだ少し青いところも残っているものだ。つまり、やや湿り気を含んでいる。火のなかに放り込むと、しばらくの間じゅうじゅうと鳴っていて、そのうちにぱちぱちと燃え上がってくる。「はしはしと」は、おそらく「じゅうじゅう」から「ぱちぱち」に移っていく過程の音だと思う。燃やす枝葉は頻繁に補給されるので、「はしはしと」は「じゅうじゅう」や「ぱちぱち」の音を抑えて、トータル的にはそのように聞こえるのである。さらに言えば音だけではなくて、杉葉の燃える独特の視覚的な様子も込められている。いつかまた囲炉裏端にある機会があったら、「はしはしと」燃える杉の様子をじっくりと楽しんでみたい。「俳句」(2004年12月号)所載。(清水哲男)




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