毎年のように年末に風邪を引くので用心しなければ。といっても、無為無策(笑)なり。




2004ソスN12ソスソス16ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 16122004

 ゆきひらに粥噴く大雪注意報

                           大森 藍

行平鍋
日も北国のどこかでは、こういう情景がありそうだ。「ゆきひら」といっても、実物を使っている人ですら、もう名前を知らない人のほうが多いかもしれない。「行平鍋」の略。在原行平が須磨で、海女に潮をくませて塩を焼いた故事にちなむという。陶製の平鍋で、把手(とって)、注口があり、蓋をそなえたもの。金属製のものもある。子供が風邪でも引いたのだろう。何か食べやすく暖かいものをと、手早くゆきひらで「粥」を作ってやっている。煮えてきて威勢良く噴き上がる様子を見ている作者に、テレビからかラジオからか、「大雪注意報」が聞こえてきた。大雪でも大雨でも、避けようもない自然現象に閉じ込められようとするとき、人と人との親和力は増してくるようである。自然の猛威のなかでは人は無力に近いから、お互いに寄り添う気持ちが高まってくるのだ。大人であれば保護者意識が高まり、子供は逆に被保護への気持ちが強くなるとでも言うべきか。見知らぬ人同士でさえ、なんとなく親しみを覚えたりする。作者の場合には、粥を食べさせる相手が病人だから、なおさらだ。といって、こうした意識には悲壮感はあまり無く、むしろ身近に保護すべき人がいることに安らぎの念すら湧いてきたりするものだ。粥は、そろそろ出来上がる。早く子供に出してやって、美味しそうに食べる顔を見てみたい。『遠くに馬』(2004)所収。(清水哲男)


December 15122004

 惜別の榾をくべ足しくべ足して

                           高野素十

語は「榾(ほた)」で冬。囲炉裏や竃に用いる焚き物。枯れ枝や木の切れ端など。今宵限りで長い別れとなる友人と、囲炉裏端で酒を酌み交わしているような情景だろう。「くべ足し」のリフレインに、なお別れがたい心情が切々と響いてくる。囲炉裏の火勢が弱まると、それを潮に相手が立ち上がりそうな気がして、せっせと「榾」をくべ足しているのだ。惜別の情止み難く「まだ宵の口だ、もう少し飲もうじゃないか」と、口にこそ出さないが、くべ足す行為がそのことを告げている。くべ足すたびに強まる榾火に、友情が厚く輝く。詠まれたのは戦前だ。惜別に至る事情はわからないが、たとえば友人が外地に赴任するというようなことかもしれない。現在とは違い、外国に行くとなると、もう二度と会えないかもしれないという思いも強かったろう。なにしろ、交通の便がよろしくない。いまのように、ジェット機でひとっ飛びなんてわけにはいかない。多少の時間をかければどこにでも行けるようになった現今では、それに反比例して、惜別の情も薄くなってきたと言うべきか。この句が載っている処女句集の序文で、虚子は「磁石が鉄を吸う如く自然は素十君の胸に飛び込んでくる。文字の無駄がなく、筆意は確かである。句に光がある。これは人としての光である」と絶賛している。同感だ。「榾」で、もう一句。「大榾をかへせば裏は一面火」。顔面がカッと熱くなる。『初鴉』(1947)所収。(清水哲男)


December 14122004

 冬夕焼しばしロスコが来てをりぬ

                           井田美知代

Rothko
語は「冬(の)夕焼」。冬の夕焼けは、たちまち薄れてしまう。そこを「しばしロスコ」が来ているかのようだと言い止めた。さもありなん。残念ながら私は実際の絵は見たことがないのだけれど、たしかに冬夕焼けは左の図版(ポスター)にあるように、ロスコの醸し出した雰囲気や色調によく似ている。ゴッホに似ているとかミレーに似ているとかと、しばしば私たちは現実の光景を画家の作品になぞらえて感じることがある。が、掲句では似ているという域を超えて、そこにあたかも画家自身が立っているようだと言っているわけだ。画家と一緒に夕焼けを仰いでいるのである。この束の間の共生感がとても鮮やかで、心に沁みた。マーク・ロスコ(Mark Rothko)は、日本ではあまりポピュラーとは言えないだろう。20世紀、ソ連出身のアメリカの画家だ。微妙な色彩、色面と色面を区切る茫洋とした線を特色とする画面は、「アクション・ペインティング」とも「ハードエッジ」の抽象画とも一線を画した、ロスコ独特のもので、不思議な詩情と崇高さを湛えている。アメリカでは、コマーシャル的な空間にも大作を描いている。日本には、千葉県佐倉市の川村記念美術館に、四面の壁に連作を掛け並べた「ロスコ・ルーム」があるそうだ。1970年に謎の自殺を遂げている。六十六歳だった。『雛納』(2004)所収。(清水哲男)




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