December 262004
お返しは小燐寸一つ餅配
池田世津子
季語は「餅配(もちくばり)」で冬、「餅搗(もちつき)」に分類。家で搗いた餅がまだ柔らかいうちに、あんころ餅、からみ餅などにしてご近所や親戚などに配ること。スーパーなどで簡単にパック入りの餅が買えるいまでは、餅搗きもしないので餅配りの風習もすっかり姿を消してしまった。私が子供の時分には、このちょっとしたお裾分けが楽しみでもあり、ああお正月がやってくるのだという実感がわいてくるのでもあった。句にあるように、配られる側は何か必ずとりあえずの「お返し」をしたもので、普段からこういうときのために、実はあらかじめ品物を用意しておく。といって、あまり大袈裟なお返しもはばかられるので、如何にもありあわせのものという印象を与えるような小物類である。「小燐寸」(マッチの小箱)だとか煙草だとか、気軽に渡せるものが適当で、子供が届けにきた場合には飴玉の類も準備されていた。母はよく小さなお返しでも「気は心」だと言っていたが、その通りだろう。味噌や醤油でも貸し借りのあった時代である。近所付き合いは持ちつ持たれつの関係が密だったから、こうした風習も根付いていたわけだ。デパートからポンと物を贈り、お返しもまたポンでは便利ではあるけれどあまりに味気ない。「気」が伝わらないのである。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)
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