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January 0712005

 人間天皇空に凧が上っています

                           内田南草

に「凧(たこ)」といえば春の季語だが、この場合は句意から推して別建ての「正月の凧」に分類しておく。戦後はじめてめぐってきた元日に、天皇の人間宣言が行われた。1946年(昭和二十一年)。「朕ハ爾等国民ト共ニ在リ。常ニ利害ヲ同ジウシ休戚ヲ分タント欲ス。朕ト爾等国民トノ間ノ紐帯ハ、終始相互ノ信頼ト敬愛トニ依リテ結バレ、単ナル神話ト伝説トニ依リテ生ゼルモノニ非ズ。天皇ヲ以テ現御神(あらひとがみ)トシ、且日本国民ヲ以テ他ノ民族ニ優越セル民族ニシテ、延(ひい)テ世界ヲ支配スベキ運命ヲ有ストノ架空ナル観念ニ基クモノニモ非ズ」。当時七歳の私には何の感慨の起きようもなかったけれど、大人たちには実に衝撃的な事態であったろう。反応は当然さまざまであったと思われるが、なかで掲句は当時の多くの庶民の気持ちを代弁していたと言ってもよいのではあるまいか。それまでの雲の上の存在が、同じ地平に降りてきたわけだから、今日からは同じように空を見上げる立場になった。正月の空といえば、まず「凧」である。人間天皇にいっしょに見上げようと呼びかけることで、戦後の大いなる開放気分をうたい込んだ句だ。今年は、敗戦から数えて六十年になる。あのときにこの開放感を抱いた庶民のその後の歴史は、どうであったか。そして、これからのこの国はどこへ行こうとしているのか。かつての戦争を知る人が少なくなってきた現在、このあたりで立ち止まってじっくりと考える必要がある。『財界歳時記』(1988)所載。(清水哲男)




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