公衆電話の撤去が加速化。郵政民営化の暁には過疎地の郵便ポストが消えてゆくだろう。




2005ソスN1ソスソス22ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 2212005

 山門の被疑者の写真雪催

                           久松久子

語は「雪催(ゆきもよい)」で冬。寺の楼門にまで指名手配のポスターが貼ってあるとは、今まで気づかなかった。でも、観光客がたくさん集まるような名刹の「山門」であるならば、全国各地から人が訪れて来るので、「被疑者」情報を得る絶好のメディアではありそうだ。プロが考えることは、やはり一味も二味も違う。折りからの「雪催」。それでなくとも愉快ではない寒々しい手配ポスターが、雪催いとあいまって、余計に寒さを助長してくるのである。こうした手配写真に目が止まるとき、むろん人の反応は様々だろうが、多くはそう単純ではないだろう。誰もが、警察的な正義の味方として見るわけではあるまい。個人的には見ず知らず縁もゆかりも恨みも無い被疑者なのだから、こんな寒空の下のどこでどうやって隠れているのか、息をひそめているのかなどと、同情とまではいかなくても、ある種のシンパシーを覚えてしまうこともある。追われるのは自業自得ではあるにしても、大組織がしゃかりきになって一個人を追いつめることについては、どこか釈然としないものが感じられるからだろう。これがもし自分であれば、どう逃げているのだろうか。そのあたりまで、私はたまに想像が及ぶこともある。句の作者がどう感じたかの詳細は知る由もないけれど、やはりそこには単純でない想いがあったのだと思う。情景も灰色ならば、心のうちも灰色である。『青葦』(2004)所収。(清水哲男)


January 2112005

 侘助を撫でゝ入りけり法学部

                           須原和男

語は「侘助(わびすけ)」で冬。この花の魅力を、薄田泣菫が次のように書きとめている。「侘助椿は実際その名のやうに侘びてゐる。同じ椿のなかでも、厚ぽつたい青葉を焼き焦がすやうに、火焔の花びらを高々と持ち上げないではゐられない獅子咲(ししざき)のそれに比べて、侘助はまた何といふつつましさだらう。黒緑の葉蔭から隠者のやうにその小ぶりな清浄身(しやうじやうしん)をちらと見せてゐるに過ぎない。そして冷酒のやうに冷えきつた春先の日の光に酔つて、小鳥のやうにかすかに唇を顫(ふる)はしてゐる。侘助のもつ小形の杯では、波々(なみなみ)と掬(く)んだところで、それに盛られる日の雫(しずく)はほんの僅かなものに過ぎなからうが、それでも侘助は心(しん)から酔ひ足(た)つてゐる」。掲句はそんな侘しい小さい花を、そっと撫でて「法学部」の建物に入っていった人物の床しさを言っている。撫でたのは、学生だろうか教授だろうか。建物が農学部や文学部あたりだとありそうな情景だが、法学部だったから、作者も「おや」という感じになった。実際に大学の構内を歩いてみると、それぞれの学部によって建物に出入りする人たちの雰囲気や気質が、なんとなく違う気がする。面白いものだ。ところで、かつて私が通った大学には侘助はともかく、どこぞに花なんぞあっただろうか。いくら思い出そうとしても思い出せない。文学部だったくせに(笑)。『式根』(2002)所収。(清水哲男)


January 2012005

 枯野ゆきつつ縺れる中学生

                           金子皆子

語は「枯野」で冬。「縺(もつ)れる」が良い。下校の途中だろうか。何人かの中学生が、下世話に言えばじゃれあいながら帰ってゆく。よく見かける光景だし、誰にもそんなふうにふざけあった覚えがあるだろう。ちょっと肩で相手を小突いてみたり、からかってパッと走って逃げたりとか。これを町中でやられると、ひどく傍若無人の存在に感じられるが、場所が「枯野」となれば印象はだいぶ違ってくる。ただ茫々とひろがる冬の原では、行き交う人もめったにいない。そこを行く中学生たちだけが、シルエットのようなイメージで浮かんで動いている。つまり、枯野での彼らはほとんど影に等しいのだ。その影たちが、しきりに「縺れ」あっている。見ていると、彼らは単に物理的に縺れているのではなく、彼らの内面までもがお互いにねじれ、からまり、また離れてといった具合に縺れているようなのだ。中学生と言えば、半分は子供で半分は大人みたいなところがある。世間を知っているようで知らないとか、独立心があるようでいて依頼心も強かったりとか、中途半端な年頃だ。そしてこのことは彼ら自身もぼんやりと意識していて、日常的にいわば矛盾の塊としての自己を持て余している。その持て余しようを、掲句は「縺れる」という表現で一掴みにしているのだと思う。作者はその年頃だった自分を重ねあわせているはずだから、ただ微苦笑のうちに眺めているわけではあるまい。『花恋2』(2005)所収。(清水哲男)




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