イラク国民議会選挙。軽々に論じるのは差し控えたいが、生命がけの民主的投票とは…。




2005ソスN1ソスソス30ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 3012005

 夜は水に星の影置き冬の菊

                           加藤耕子

語は「冬(の)菊」。当歳時記では、一応「寒菊(かんぎく)」に分類しておく。芭蕉の昔より「寒菊」「冬菊」の句は多いが、冬季は花が少ないので自然にこの花に注目が集まるということだろう。が、掲句のように冬の夜の菊を詠んだものは珍しい。池のほとりに咲いている冬の菊。今宵の空は煌煌と冴え渡り、「水」は「星の影」をくっきりと写している。その星々と白い菊の花が、まったき静寂の中で澄み切っている様が目に浮かぶ。がさがさとせわしない現代人の暮らしの中にも、心を鎮めれば、こうした情景をとらえることができるのだ。その意味で、この句は私をはっとさせた。叙景句、あなどるべからず。ところで、季語「冬菊」を「寒菊」とは別種なので別項目にしている歳時記がある。最も新しいものでは、講談社版『花の歳時記』(2004)がそうだ。それによると「冬菊」は普通種の遅咲きを指し、「寒菊」は「島寒菊(油菊)」を改良した園芸品種を指すのだという。そして「(これらを)混同している歳時記が多い」と書いてある。しかし私は、それはその通りだとしても、あえて「混同」的立場に立っておきたい。なぜならば、多くの歳時記がどうであれ、肝心の俳人たちが明確に「冬菊」と「寒菊」の違いを承知した上で詠んできたとは、とても思えないからなのだ。たとえば芭蕉の有名な「寒菊や粉糠のかゝる臼の端」にしても、この菊は園芸種でないほうがよほど似つかわしいではないか。それに別建て論者が典拠とする『江戸名所花暦』は文政11年(1827年)の刊行だから、むろん芭蕉が知り得たはずもないのである。掲句は俳誌「耕」(2005年2月号)所載。(清水哲男)


January 2912005

 遊び降りにたちまち力山の雪

                           矢島渚男

語はもちろん「雪」であるが、「遊び降り」という言い方にははじめて接した。作者は長野の人だから、信州あたりでは普通に使われている言葉なのだろう。はじめての言葉だが、だいたい察しはついたつもりだ。ちらりちらりと降るともなく降ってくる雪。その様子が、いかにも悪戯っぽく「遊び」めかしたような降り方に思えることからの言い方だと思う。味のある言葉だ。しかし遊び降りだからといって、「山の雪」をあなどってはいけない。東京あたりだと、ちらちらはちらちらのままに終わってしまうことが多いけれど、雪国の山中ではまさに句にあるごとく、ちらちらに「力」を得たかのように「たちまち」視界を遮るほどの本降りに変わっていく。雪国とまでは言えなくとも、我が故郷での少年時代には何度も同じような降り方を体験した。下校時にちらちらっと来たら、一里の道を一目散に家をめがけたものだ。掲句にそんなことも思い出したが、この「力」の使い方が実に巧みだ。なんでもないようだけれど、この「力」は情景的な雪のそれにとどまらず、句全体を引き締める力としても働いている。妙な言い方になるが、句のいわばフンドシとして機能している。であるがゆえに、読む側にもキリリとした力が渡されるというわけだ。『翼の上に』(1999)所収。(清水哲男)


January 2812005

 寒き夜や父母若く貧しかりし

                           田中裕明

年末に急逝した作者の主宰誌「ゆう」の二月号が届いた。最後の作品として、掲句を含む二十二句が載せられている。むろん、彼はこの最新号を目にすることはできない。彼はあまり自分の育ちなどについては詠まないできた人という印象があるので、おやっと目が止まってしまった。他のページに「いまはあいにく入院中で、おおかた病院の中にいます」とあるから、この句も病院で詠まれたものだろう。入院という環境が、「家族」を強く意識させたということにもなろうか。とりたてて家族への新鮮な視点があるわけではないけれど、貧しくはあったが、あのころがいちばん良かったかなというつぶやきが聞こえてきそうな句だ。いまの自分よりももっと若かった父母を中心に、「寒き夜」に家族が身を寄せあっている情景は懐かしくも心温まる思い出だ。両親が貧しさと戦う武器は「若さ」のみ。生活の不安や悩みには重いものがあったろうが、子供としての作者にはわかるはずもない。ただ両親の若さによる活力を頼もしく思い、庇護されていることの心地よさだけがあった……。作者とはだいぶ年代が違うのだが、敗戦時に子供だった私たちの世代には、もうこれだけでぐっと来てしまう句だ。なお「ゆう」は、もう一冊「田中裕明主宰追悼号」を出して終刊となる。(清水哲男)




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