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2005N22句(前日までの二句を含む)

February 0222005

 面体をつゝめど二月役者かな

                           前田普羅

月は生まれ月なので、今月の句はいろいろと気になる。この句もその一つで、長い間気にかかっていた。多くの歳時記に載っているのだけれど、意味不明のままにやり過ごしてきた。「二月役者」の役者は歌舞伎のそれだろうが、その役者が何をしている情景かがわからなかったからである。で、昨日たまたま河出文庫版の歳時記を読んでいたら、季語の「二月礼者(にがつれいじゃ)」の項にこうあった。「正月には芝居関係、料理屋関係の人々は年始の礼にまわれないので、二月一日に回礼する風習があった。この日を一日(ひとひ)正月、二月正月、迎え朔日、初朔日といった。正月のやり直しをする日と考えるのである」(平井照敏)。例句としては「出稽古の帰りの二月礼者かな」(五所平之助)など。読んだ途端に、あっ、これだなと思った。つまり「礼者」を「役者」に入れ替えたのだ。そういうことだったのかと、やっと合点がいった次第。積年の謎がするすると解けた。いくら人に正体を悟られないように「面体を」頬かむりしてつつんではいても、そこは役者のことだから、立居振る舞いを通じて自然に周囲にそれと知れてしまう。ああ名のある役者も大変だなあと思いつつ、しかし作者は微笑しているのだろう。大正初期の句だが、私などにはもっと昔の江戸の情景が浮かんでくる。なお、「二月」は春の季語。中西舗土編『雪山』(1992・ふらんす堂)所収。(清水哲男)


February 0122005

 むささびに一夜雨風それから春

                           大石悦子

語は「むささび」で冬。リスの仲間だが、前後肢のあいだに飛膜があって、木から木へと滑空するのが特長だ。性温和、夜行性。冬季としたのは晩冬から初春にかけてが交尾期で、猫のような声で鳴くからだと考えられる。掲句は、もちろん想像の産物だ。想像句で難しいのは、いかに想像の世界を「さもありなん」と読者に思わせるかである。この句では「むささび」が出てくるのだが、これを別の動物、例えばキツネやタヌキなどでも、それなりに違った味の句にはなると思う。が、作者があえてあまりポビュラーとは言えない「むささび」を持ち出したのは、その生態の一部において、感覚的に我々人間の孤独感と通いあうものを思ってのことに違いない。むささびは、群れをなさない。単独か小さな家族単位で暮らしている。子供はせいぜいが一匹か二匹だという。住処である木の洞も、人の狭い住居に結びつく。だから「一夜雨風」ともなれば、私たちの冬ごもりと同じように、じいっと洞に身をひそめて悪天候が去るのを待つしかないだろう。そんな彼らの孤独の夜を、作者は風雨の冷たい冬の夜に想像して、いつしか自分が彼らの行動を断たれた孤独な世界と溶け合っている気持ちになった。だがしかし、こうした淋しくも厳しい冬の夜も、間もなく終わりに近づいてきている。もうすぐ春がやってくるのだ。「それから春」という表現には、孤独の氷解を期待する想いがいわば爆発寸前であることを告げているかのようだ。あさっては節分、四日が立春。『耶々』(2004)所収。(清水哲男)


January 3112005

 人参は丈をあきらめ色に出づ

                           藤田湘子

語は「人参(にんじん)」で冬。大人になっても苦手な人がいるけれど、私は子供のころから好きだった。でも、正直言って最近のものには美味くないのが多い。当時は掘りたての人参を生でも食べていたのだから、よほど甘味に飢えていたのか、あるいは本当に品質が良かったのか。それはともかく、掲句はまことに言い得て妙だ。世の中にはひょろ長い品種もあるのだそうだが、たいていの人参はゴボウなどのように「丈」長くは生長しない。ずんぐりしている。それを作者は人参が「丈をあきらめ」たせいだと言い、その代わりにあきらめた分だけ「(美しい)色に」出たのだと言っている。なるほどねえと、多くの読者は微笑するに違いない。むろん、私もその一人だ。ただ、句では人参が擬人化されていることもあって、なかには人生訓的に読もうとする人もありそうだが、それは作者の意図に反するだろう。この句の生命は、あくまでも人参のありようをかく言い止めたウイットにあるのであって、もっともらしく教訓的にパラフレーズしてしまっては何のための句かわからなくなってしまう。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」などの俳句もどきとは違うのである。ウイット無き俳人は問題にならないが、ウイット無き読者も同断だ。しゃかりきになってこんなことを言う必要もないのだけれど、ちょっと気になったので……。俳誌「鷹」(2005年2月号)所載。(清水哲男)




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