雰囲気を変えてみました。ミラーは元通り。HumanClock、最初だけ指示に従ってください。




2005ソスN3ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

March 0132005

 莨火を樹で消し母校よりはなる

                           寺山修司

季句としておくが、高校卒業の日を題材にした句だろう。すなわち「母校はなる」は卒業の意だ。しかし下五を「卒業す」としたのでは、あっけらかんとし過ぎてしまい、青春期の屈折した心情が伝わらない。たぶん作者は、高校生活をかなりうとましく感じていたのだろう。しかし、全部が全部うとましかったわけでもない。こんな学校なんて、とは思っていても、いざ卒業ということになると、去り難い気持ちもどこかに湧いてくる。式典が終了しクラスも解散、後は帰宅するだけというところで、校庭の片隅か裏門のようなところでか、クラスメートからひとり離れて「莨(たばこ)」に火をつけた。制服のカラーのホックを外し、第一ボタンを外して、不良を気取った例の格好で……。で、喫い終わった莨火を消すときに、地面で踏み消せばよいものを、わざわざ「樹」になすりつけたのである。この消し方に、母校への愛憎半ばした粘りつくような心情が込められているわけだ。さらっと「あばよ」とは別れにくい心情を、力技でねじ切るようにして樹に莨火をなすりつけている。このセンチメンタリズムは、たしかに青春のものである。今日は、全国の多くの高校で卒業式が行われる。現代の高校生は、どんなふうにして学校への複雑な思いを表現するのだろうか。いや、そもそも寺山修司のころのように、屈折した心情を抱いている生徒が多くいるのだろうか。現代俳句協会編『現代俳句歳時記・無季』(2004)所載。(清水哲男)


February 2822005

 バースデー春は靴から帽子から

                           中嶋秀子

まには、こうした手放しの明るさも気持ちが良い。作者の「バースデー」の正確な日付は知らないが、まだ寒い早春のころだろう。誕生日というので、自分に新しい「靴」と「帽子」をおごった。身につけると、それらの華やいだ色彩から、自然に先行して「春」が立ち上ってきたように思われたと言うのである。ひとり浮き浮きしている様子が伝わってくる。何の変哲もない句のように思えるかもしれないが、俳句ではなかなかこうした美意識にはお目にかかれない。つまり、人工的な靴や帽子から自然現象としての春に思いが至るという道筋を、通常の俳句様式は通らないからだ。何から、あるいはどこから春が来るかという問いに対して、たいていの俳句はたとえば芽吹きであったり風の吹き具合であったりと、同じ自然現象に予兆を感じると答えるのが普通だろう。が、掲句はそれをしていない。このような表現はかつてのモダニズム詩が得意としたところで、人工と自然を相互に反射させあうことで、いわば乾いたハイカラな抒情の世界を展開してみせたのだった。一例として、春山行夫詩集『植物の断面』(1929)より一部を紹介しておく。「白い遊歩道です/白い椅子です/白い香水です/白い猫です/白い靴下です/白い頸(くび)です/白い空です/白い雲です/そして逆立ちした/お嬢さんです/僕のKodakです」。「Kodak」はアメリカ製のカメラだ。掲句の「バースデー」も「Kodak」の味に通じている。『玉響』(2004)所収。(清水哲男)


February 2722005

 離婚と決めし夫へ食べさす蜆汁

                           清水美津枝

語は「蜆(しじみ)」。蜆は一年中出回っているが、琵琶湖特産のセタシジミの旬が春のため、春の季語になったという。このことからしても、季語は京都を中心に考えられてきたことがわかる。「離婚と決めし」だから、まだ「夫(つま)」に離婚を切り出したわけではあるまい。自分ひとりの心のうちで決意した段階だ。したがって、いつものように「食べさ」せている。彼の好物なのか、それとも単に旬のものだから出したのか、いずれにせよ会話も無い食卓で「蜆汁」のカシャカシャと触れ合う小さな音だけがしている。春なのに、いや春だからこそ、なんとも侘しい気持ちなのだ。離婚してせいせいしたい気持ちと、そこに至るまでの長く重苦しいであろう時間への思いとがないまぜになって、ますます滅入ってくる……。むろんこの句は、現在進行形ではなく、離婚成立後に詠まれたものだろう。回想句だ。春が来て「蜆汁」を食べるたびに、作者はこのときのことを嫌でも思い出さざるを得ない。下衆のかんぐりをしておけば、離婚話を持ち出したのはこの日のことだったような気がする。なお、作者の苗字は私と同じだけれど、私の身内でもなければ知り合いでもありません。念のため(笑)。現代俳句協会編『現代俳句歳時記・春』(2004)。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます