March 052005
春服の部下を呼び付け叱らねば
久松洋一
季語は「春服(しゅんぷく)」。正月の「晴れ着」ではない。春の明るく軽やかな服装のこと。男女の着る和装、洋装いずれをも指すが、どちらかといえば女性の洋装が詠まれる場合が多い。掲句も、そうだろう。とくに若い女性のファッションは、季節に敏感だ。いや、季節を先取りすると言ったほうが適当か。この女性も、まだ春というには寒い日に、いかにも春らしい服装で出勤してきた。それだけでオフィスは華やぐ感じがするものだが、彼女自身もいつもよりは気分が華やいでいるようで上機嫌だ。が、彼女が仕事上の失敗をしたことを、上司である作者は気がついている。そのままにしておくと今後とも業務に差し支えるので、どうしても「叱らねば」ならない。叱ったら、きっと彼女はションボリしてしまうだろう。せっかくの「春服」の華やぎも台無しだ。できることなら叱りたくはないのだけれど、立場上からしてやむを得ない。でも、いつ「呼び付け」ようか。もう少し後でもいいかな……。気が重い。タイミングを計りながら、ちらちらと彼女の様子をうかがっている中間管理職の苦さがよく伝わってくる句だ。私は作者のような立場になったことはないが、上司には「部下」にはわからない上司としての辛さがあるのだ。上司もつらいよ。「抒情文芸」(2005年春号)所載。(清水哲男)
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