明日の萩市との合併に伴い我が故郷「むつみ村」の地名が今日いっぱいで消えてしまう。




2005ソスN3ソスソス5ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

March 0532005

 春服の部下を呼び付け叱らねば

                           久松洋一

語は「春服(しゅんぷく)」。正月の「晴れ着」ではない。春の明るく軽やかな服装のこと。男女の着る和装、洋装いずれをも指すが、どちらかといえば女性の洋装が詠まれる場合が多い。掲句も、そうだろう。とくに若い女性のファッションは、季節に敏感だ。いや、季節を先取りすると言ったほうが適当か。この女性も、まだ春というには寒い日に、いかにも春らしい服装で出勤してきた。それだけでオフィスは華やぐ感じがするものだが、彼女自身もいつもよりは気分が華やいでいるようで上機嫌だ。が、彼女が仕事上の失敗をしたことを、上司である作者は気がついている。そのままにしておくと今後とも業務に差し支えるので、どうしても「叱らねば」ならない。叱ったら、きっと彼女はションボリしてしまうだろう。せっかくの「春服」の華やぎも台無しだ。できることなら叱りたくはないのだけれど、立場上からしてやむを得ない。でも、いつ「呼び付け」ようか。もう少し後でもいいかな……。気が重い。タイミングを計りながら、ちらちらと彼女の様子をうかがっている中間管理職の苦さがよく伝わってくる句だ。私は作者のような立場になったことはないが、上司には「部下」にはわからない上司としての辛さがあるのだ。上司もつらいよ。「抒情文芸」(2005年春号)所載。(清水哲男)


March 0432005

 世界の子らになの花いろの炒りたまご

                           呉羽陽子

語は「なのはな(菜の花)」で春。かつてサルトルは「飢えた子に文学は有効か」という問いを投げかけた。むろん、文学には答えられない質問だ。太古の昔から、子供は状況の被害者となる確率が高い。現代でも飢えはもとより、多くの子供たちが戦争による死、大人による虐殺、人身売買などの危険にさらされている。そんな子供たちが一人残らず、平和な環境で「なの花いろの炒りたまご」を食べられる日がくるだろうか。来ないかもしれない。いや、絶対に来てほしいという願いの込められた美しい句だ。こうした句は、案外と難しい。理屈に走ればヒューマニスト気取りと受け取られかねないし、感情に溺れればヒステリックな夢想家のように思われがちだからだ。実際、この世は子供や老人、障害者などの弱者に対して、多く偽善的である。断言できる。いつだって建前論を床の間に飾って、具体的には問題を遠くへ遠くへと排除しやり過ごしてしまうのだ。だからこのときに、有季定型俳句であろうとも、弱者への建前的ではない祈りや願望を表現することは、この世の「暗黙の秩序」にどこかで実質的には逆らうことになる。この句も、もちろんそうした構造を持っているだろう。だが、そのあたりがあからさまに露出して見えてこないのは、やはり「なの花いろ」の圧倒的な美しさを、読者が強く感じるからに違いない。その意味で、有季を巧みに取り入れた作品だと言える。それこそ良く出来た「炒りたまご」のようにふんわりと柔らかく、しかし有無を言わせず私たちに訴えてくるものがある。鴎座合同句集『翔』(2004)所載。(清水哲男)


March 0332005

 地の涯に倖せありと来しが雪

                           細谷源二

者は1941年(昭和十六年)の新興俳句弾圧事件で逮捕、二年間投獄され、敗戦の直前に東京からの開拓移民として一家をあげて北海道に渡った。北海道史をひもといてみる。「来れ、沃土北海道へ、戦災を転じて産業の再編成」というスローガンの下、拓北農民隊と呼ばれた応募者は東京都1719戸、大阪府583戸、神奈川県343戸、京都府257戸という具合に大都市圏からの移住者が多かった。しかし彼らに与えられたのは、沃土どころか大部分が泥炭地や火山灰地であり、ましてや農業経験もない人たちにはあまりにも過酷な現実であった。掲句には過酷とも苦しみとも何も書かれてはいないけれど、最後に置かれた「雪」の一文字で全てが語られている。同じように「幸せ」を求めたカール・ブッセの「山のあなた」の主人公は「涙さしぐみ、かへりきぬ」(上田敏訳)と戻ってくることができたが、開拓移民にはそれもならない。見渡す限りの大地を覆い尽くし、なお降りしきる雪のなかに、胸ふくらませた「倖せ(しあわせ)」などは完全に飲み尽くされてしまった。全てを失った者の茫然自失とは、こういうことを言うのだろう。今年は敗戦後60年にあたる。もはや北海道でも語られることの少ないであろう歴史の一齣だ。今日も北海道は雪のなか、雪のなかの雛祭り……。『砂金帯』(1949)所収。(清水哲男)




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