写真の良し悪しはカメラのそれとは無関係。とは言うけれど,やっぱり関係があるなあ。




2005ソスN5ソスソス11ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 1152005

 若菜から青葉へぽつんと駅がある

                           富田敏子

語は「青葉」で夏。「若菜」もそのように思えるが、俳句で「若菜」は新年の季語だ。七草粥に入れる春草を言う。しかし、この句ではそうした正月の七草ではなく、なんとなく春の雰囲気を帯びた草の総称として使われているので、季語と解さないほうがよいだろう。初夏のローカル線での情景。作者は車中にあって、窓外の景色を眺めている。広々とした平野にはどこまでも薄緑の春の草が広がっていて、心地よい。そのうちに列車は山間にさしかかり、今度は木々の緑が美しく目に飛び込んできた。これからしばらくは、この青葉をぬって進んでいくのである。その「若菜」と「青葉」の景色が切り替わるあたりの「駅」で、列車はしばし停車した。無人駅かもしれない。それはいかにも唐突に「こんなところに駅が」という感じで「ぽつん」と立っており、乗降客も見当たらないようだ。私の故郷の山口線にも、昔はそんな駅がいくつかあった。この句の良さは、もちろん「若菜から青葉へ」の措辞にあるわけで、物理的には平野部から山間部への移動空間を指し示しているのと同時に、他方では春から夏への時間的な移ろいを表現している。その時空間がまさに変化しようとしている境界に、ぽつんとある駅。駅自体はちっぽけなのだけれど、存在感は不思議に重く感じられる。作者のセンスの良さが、きらっと輝いている句だ。『ものくろうむ』(2003)所収。(清水哲男)


May 1052005

 とととととととととと脈アマリリス

                           中岡毅雄

語は「アマリリス」で夏。ギリシャ語で「アマリリス」は「輝かしい」という意味だそうだが、そのとおりに輝かしく健康的で、そしてとても強い、先日見た鈴木志郎康さんの映画のなかに、三年ぶりだったかに庭に咲いたこの花が出てきたが、そう簡単には生命力を失うことはないらしい。一方、作者は病いを得て、少なくとも健康とは言えない状態のなかにいる。そんな状態が、もうだいぶ長いのだろうか。ときおり脈の様子をみるのが、習い性になっているのだ。今日もまた、いつものように手首に指先を当ててみると、「とととと」「とととと」と、かなり早く打っている。健康体であれば、もう少しゆっくりした調子で「とくとく」「とくとく」となるところなのに……。そしてこのとき、作者の視界にあるのはとても元気なアマリリスだ。病気の身には、人間はもとよりだが、草木や花などでも、健康的なものには敏感になる。老いの身が若さをまぶしく感じるのと同様で、元気に触れると、どうしようもないほどに羨望の念を覚えてしまう。「とととととととととととと」、表現は一見諧謔的ではあるけれど、それだけ余計にアマリリスの元気と溶け合えない作者の気持ちが増幅されて伝わってくる。ところで、この花の花言葉は「おしゃべり」だそうだ。病人には、もっとしっとりとした花でないと、刺激が強すぎる。『椰子アンソロジー・2004』(2005・椰子の会)所載。(清水哲男)


May 0952005

 美しき人の帯せぬ牡丹かな

                           李 千

語は「牡丹(ぼたん)」で夏。柴田宵曲『古句を観る』(岩波文庫)に出ている元禄期の句だ。えっ、なんだい、これはっ。と、一瞬絶句。牡丹と美人との取り合わせは良いとしても、選りにも選ってしどけなくも帯をしていない女を立たせるとは。いわゆる狂女かしらんと想像をめぐらして、なんだか不気味な句だと思ったら、そうではなかった。宵曲曰く、「こういう句法は今の人たちには多少耳遠い感じがするかも知れないが、この場合強いて目前の景色にしようとして、帯せぬ美人をそこに立たせたりしたら、牡丹の趣は減殺されるにきまっている。句を解するにはどうしてもその時代の心持ちを顧慮しなければならぬ」。なるほど。となれば、現代の句は「今」の時代の心持ちを顧慮して読まなければならないわけだが、その前に「今」の俳句が「今」の心持ちを詠んでいるのかどうかが大いに気になる。「今」の時代というよりも、「今」の俳壇の心持ちで詠まれている句が多すぎないか。おっと、脱線。したがって、掲句の帯せぬ美人とは、すなわち牡丹の艶麗な様子を言ったものである。「立てば芍薬、坐れば牡丹」と言い古されてきたが、元禄期の心持ちでは牡丹は美人の立ち姿だったことになる。当然のことながら、美人の尺度もその時代の心持ちによって決められるのだから、この帯せぬ人の体型は、「今」の美人のそれとは大いに異なっていたのだろう。(清水哲男)




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