週末は久留米市で開かれる丸山豊賞贈呈式に出席のため「飛行機で」福岡まで。南無…。




2005ソスN5ソスソス12ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 1252005

 緑蔭に低唱「リンデン・バウム」と云ふ

                           上田五千石

語は「緑蔭(りょくいん)」で夏。青葉の木陰は心地よい。二通りに解せる句で、ひとつは、緑蔭で誰かが低く歌っている「リンデン・バウム」が聞こえてきたという解釈と、もう一つは自分で歌っているという解釈だ。私は「緑蔭に」の「に」を重視して、自分が口ずさんでいると取る。ほとんど鼻歌のように、何の必然性もなく口をついて出てきた歌。それがシューベルトの名曲「リンデン・バウム」だったわけだが、作者はその曲名をあらためて胸の内で「云ふ」ことにより、美しい歌の世界にしばしうっとりとしたのだろう。あるいはこの曲にはじめて接した少年時代への懐旧の念が、ふわっとわいてきたのかもしれない。いずれにしても、ちょっとセンチメンタルな青春の甘さが漂っている句だ。♪泉に沿いて繁る菩提樹……。私は中学二年のときに習ったが、この曲を思い出すと、教室に貼ってあった大きなシューベルトの肖像画とともに、往時のあれこれがしのばれて、胸がキュンとなる。学校にピアノはなく、オルガンで教えてもらった。ところで「リンデン・バウム」を菩提樹と訳したのは堀内敬三だが、ドイツあたりではよく見かけるこの樹は、お釈迦様の菩提樹とも日本の寺院などの菩提樹とも雰囲気がかなり違う。両者の共通点は同じシナノキ科に属するところにはあるのだけれど、この訳で良かったのかどうか。もっとも「菩提樹」という宗教的な広がりを感じさせる訳だったからこそ、日本にもこの歌が定着したとも言えそうだが。『田園』(1968)所収。(清水哲男)


May 1152005

 若菜から青葉へぽつんと駅がある

                           富田敏子

語は「青葉」で夏。「若菜」もそのように思えるが、俳句で「若菜」は新年の季語だ。七草粥に入れる春草を言う。しかし、この句ではそうした正月の七草ではなく、なんとなく春の雰囲気を帯びた草の総称として使われているので、季語と解さないほうがよいだろう。初夏のローカル線での情景。作者は車中にあって、窓外の景色を眺めている。広々とした平野にはどこまでも薄緑の春の草が広がっていて、心地よい。そのうちに列車は山間にさしかかり、今度は木々の緑が美しく目に飛び込んできた。これからしばらくは、この青葉をぬって進んでいくのである。その「若菜」と「青葉」の景色が切り替わるあたりの「駅」で、列車はしばし停車した。無人駅かもしれない。それはいかにも唐突に「こんなところに駅が」という感じで「ぽつん」と立っており、乗降客も見当たらないようだ。私の故郷の山口線にも、昔はそんな駅がいくつかあった。この句の良さは、もちろん「若菜から青葉へ」の措辞にあるわけで、物理的には平野部から山間部への移動空間を指し示しているのと同時に、他方では春から夏への時間的な移ろいを表現している。その時空間がまさに変化しようとしている境界に、ぽつんとある駅。駅自体はちっぽけなのだけれど、存在感は不思議に重く感じられる。作者のセンスの良さが、きらっと輝いている句だ。『ものくろうむ』(2003)所収。(清水哲男)


May 1052005

 とととととととととと脈アマリリス

                           中岡毅雄

語は「アマリリス」で夏。ギリシャ語で「アマリリス」は「輝かしい」という意味だそうだが、そのとおりに輝かしく健康的で、そしてとても強い、先日見た鈴木志郎康さんの映画のなかに、三年ぶりだったかに庭に咲いたこの花が出てきたが、そう簡単には生命力を失うことはないらしい。一方、作者は病いを得て、少なくとも健康とは言えない状態のなかにいる。そんな状態が、もうだいぶ長いのだろうか。ときおり脈の様子をみるのが、習い性になっているのだ。今日もまた、いつものように手首に指先を当ててみると、「とととと」「とととと」と、かなり早く打っている。健康体であれば、もう少しゆっくりした調子で「とくとく」「とくとく」となるところなのに……。そしてこのとき、作者の視界にあるのはとても元気なアマリリスだ。病気の身には、人間はもとよりだが、草木や花などでも、健康的なものには敏感になる。老いの身が若さをまぶしく感じるのと同様で、元気に触れると、どうしようもないほどに羨望の念を覚えてしまう。「とととととととととととと」、表現は一見諧謔的ではあるけれど、それだけ余計にアマリリスの元気と溶け合えない作者の気持ちが増幅されて伝わってくる。ところで、この花の花言葉は「おしゃべり」だそうだ。病人には、もっとしっとりとした花でないと、刺激が強すぎる。『椰子アンソロジー・2004』(2005・椰子の会)所載。(清水哲男)




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