風邪を引いてしまった。おまけによく見えるコンタクトを失い,頭も目も効かず絶不調。




2005ソスN5ソスソス29ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 2952005

 夜の岩の一角照るは鯵釣れり

                           秋光泉児

語は「鯵(あじ)」で夏。種類が多いので、総称である。ちなみに代表格であるマアジの学名は"Trachurus japonicus"と、日本の名が入っている。普段は深い海に住んでいるが、この季節になると、産卵のため浅いところにやってくるのだという。夕食後の散歩だろうか。暗い海岸から見やると、遠くの岩場にちろちろと灯りが見える。ああ、あれは鯵を釣っているんだな。と、それだけの句だけれど、初夏の風物詩としての味わいは良く出ている。私は海で釣ったことはないので知らないのだが、この灯りについては釣り好きだった詩人の川崎洋が書いている。「横須賀の岸壁から竿を出し、夕刻から夜にかけてよくアジを釣りました。群れを寄せるのに、横にカーバイトの明かりを用意しました。それ専門の用具を釣り道具店で売っていました。子どものころ、東京の大森で縁日のとき道の両側にならんだ露店の灯火がこのカーバイトで、その明かりと匂いを懐かしく思い出しながら釣りました」(『肴の名前』2004)。現在もカーバイトを使うのかどうかは知らないが、なるほど、釣り人にはこうした用具も楽しみの一つであるわけだ。お祭りなのですね、釣りは……。鯵といえば、夏の民宿での朝ご飯を思い出す。我が人生のそれこそお祭りどきだったなあ、あの頃は。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


May 2852005

 傘の女水中花にして街暮れる

                           渡邉きさ子

語は「水中花」で夏。フォトジェニックな句だ。構図がぴしゃりと決まっている。雨降りの日暮れの街、とある建物から出てきた「女」が傘を開いた。ぱあっと開いた彼女の様子は、さながら「水中花」の開くそれにも似て、華麗で美しい。他にも通行人はいるのだけれど、作者の視野にはその「女」ひとりだけが焼きつけられたのだった。それもくっきりとではなく、雨のフィルターと薄暮の光源のために、少し紗がかかっている。まことに都会的で洒落た一句だ。一読、こんな写真を撮ってみたいなと思い、十七文字でそれをなし得た作者のセンスの良さと構成力に感心してしまった。このようなまなざしで、雨の街を歩いている人もいるのだ。あやかりたい。もう一度読み直してみると、句の主体は作者ではなく「街」である。街が「女」を水中花にしている。そこに作者の技巧的な作為が働いているわけだが、こうした詠み方はひとつ間違えると句をあざとくしてしまう危険性がある。つまり、作り過ぎになってしまう。掲句が実景であるかどうかは別にして、そのあざとさの危険性を限りなくさりげなさの方に寄せているのは、やはり雨と薄暮による紗の効果によるものだと思った。こういうことは、すべて作者の持って生まれたとでも言うしかないセンスに属する。魅かれて、句集一巻をじっくり再読することになった。『野菊野』(2004)所収。(清水哲男)


May 2752005

 麦の秋一と度妻を経てきし金

                           中村草田男

語は「麦の秋」で夏。ちょうど今頃から梅雨入り前まで、麦刈りに忙しい農家も多いだろう。時間がなくて調べずに書いているのだが、句は作者が新婚間もない時期のものだと思われる。結婚すると独身時代とは違った生活の相に出会うことになるが、家計の管理もその一つだ。作者の場合はすべての金銭管理を妻にまかせたわけで、月々の小遣いも妻から渡してもらうことになった。自分が働いて得た金を妻経由で渡されることに、慣れない間は何か不思議なような照れくさいような感じを受けるものだ。と同時に、これが家庭を持つということ、一人前になるということなのだと、大いに納得できるのでもある。眼前には収穫期をむかえた麦が一面の金色に広がっていて、ポケットの財布のなかには妻から手渡されたばかりの金がある。作者はそのことにいい知れぬ充実感を覚え、いよいよ張り切った気持ちになってゆく自分を感じている。もっとも掲句は専業主婦が当たり前の時代のもので、いわゆる共働きが普通になってきている現代の新婚夫婦間には、こうした感慨は稀薄かもしれない。たとえどちらかがまとめて管理するとしても、お互いに所得があるのだから、金銭に関してはむしろドライな感覚が優先するのではあるまいか。作者の時代の夫婦間の金が湿っていたのに対して、現代のそれは乾いている。比喩的に言えば、そういうことになりそうだ。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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