June 012005
六月の花嫁がかけ椅子古ぶ
安田守男
暦の上での「六月」は、すでに夏のなかばだ。仲夏の候。梅雨が控えてはいるものの、実際にもすべての風物が夏らしく変わっていく。「六月の花嫁」、すなわちジューン・ブライドはヨーロッパの言い伝えで、この月に結婚する女性は幸福になれるという。根拠には諸説あるそうだが、私は最も単純に捉えて、彼の地では六月がいちばん良い気候だからだろうと思っている。だとすれば、日本では春か秋に該当する。そんなこの国で、何も好き好んでこの蒸し暑い月に結婚式をあげることもないではないか。でも、そこはそれ、ブライダル・マーケットの巧みな陰謀もあってか、すっかりジューン・ブライドは定着してしまった感がある。何を隠そう(なんて、力を入れる必要もないけれど)、私も三十数年前の六月に挙式している。なぜ、六月だったのか。当時はまだジューン・ブライド神話も上陸しておらず、とにかく六月の式場は空いていて、料金も安かったという極めて実利的な理由からだった。案の定、当日は雨模様で蒸し暑かったのを覚えている。前置きが長くなったが、掲句は花嫁の褒め歌だ。匂うがごとき「六月の花嫁」が腰掛けると、式場の立派な椅子ですら、たちまちにして古びてしまう。それほどに、目の前の花嫁は若くて美しい……。というわけだが、この褒め方もなんとなく西欧風であるところが面白い。『新日本大歳時記・夏』(2000・講談社)所載。(清水哲男)
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