東郷青児の贋作による詐欺事件。そういえば京都朝日会館の外壁画はどうなったのかな。




2005ソスN6ソスソス10ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 1062005

 松の芯中野竹子の叱咤なお

                           的野 雄

語は「松の芯」。松の新芽、あるいは若葉のことも言う。春季の「若緑」の項に分類しておくが、掲句に詠まれた舞台などを考え合わせると、むしろ入梅前のいまごろの季節と見たほうがよさそうだ。「中野竹子」は戊辰戦争時、女性たちによる薙刀部隊を率いて新政府軍と闘った人物である。「会津藩士中野平内を父に生まれた。資性鋭敏、容姿端麗、才智は衆にすぐれ文武両道に通じ、詩文和歌などの文才もあり、度々藩の賞美をうえ典型的な会津女子としての義に徹し、その反面、ものやわらかな豊麗があふれていたといわれる。明治元年八月戊辰戦争では、柳橋の戦いに挑み、男子も及ばぬ奮戦をしたが、虚しく西軍の凶弾に倒れた。その首級は翌朝、農兵により坂下に持ち帰られ、後に坂下町曹洞宗法界寺に埋葬された」(「うつくしま電子辞典」による)。このとき竹子、二十二歳。若き非業の最期であった。作者は「松の芯」の時期に彼の地を訪れた。すくすくと抜きん出た若緑の様子に、竹子のさもあったろうという勇姿を重ねあわせて、「叱咤なお」と彼女の激しい忠誠心を讃え追悼している。星霜移り人は去るといえども、竹子の心映えは松の緑のように蘇りつづけるだろうということだ。「武士(もののふ)の猛き心にくらぶれば数にも入らぬ我が身ながらも」。辞世の歌と言われている。『斑猫』(2002)所収。(清水哲男)


June 0962005

 異腹の子等の面輪や蛍籠

                           西島麦南

語は「蛍籠」で夏。作者の私生活のことは何も知らないので、この「子等」が実子なのか他人の子供なのかは、句だけからではわからない。二人の子供が頬を寄せあうようにして、一つの蛍籠をのぞきこんでいる。その様子を作者が微笑しつつ眺めている図だが、実は二人の子供の母親はそれぞれに違うのだ。この関係を俗に「異腹」と言い、作者は「ふたはら」と読ませている。が、調べてみると『広辞苑』などには「いふく」ないしは「ことはら」の読みで載っていて。「ふたはら」の読みはない。「ふたはら」の読みのほうが、より直裁的で生臭い感じがするが、句の情景にはぴったりだ。子供等はもちろん、作者も普段はさして気にかけてはいないことだけれど、こうやって二人が「面輪(おもわ)」を並べていると、やはり胸を突かれるものがある。似ているところもあるが、やはりそれぞれに異なる母親の面輪も引き継いでいる。血は争えない。もしかすると、まだ幼い二人にはこの事実は告げられていないのかもしれず、だとしたら、作者は気づいた途端にすっと二人から目を外しただろうか。子供等の無心と親(大人)の有心と……。蛍籠の醸し出す親和的な時空間に、思いがけずも吹き込んできた生臭いこの世の風である。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


June 0862005

 梅雨よわが名刀肥後ノ守錆びたり

                           原子公平

語は「梅雨」で夏。作者、晩年の句。慷慨句とでも言うべきか。茫々たる梅雨のなか、もはや沈滞した気分を払いのけるでもなく、鬱々と楽しめぬままに過ごしている。これで若ければ、なにくその気概もわいてきたろうが、そんな気力も出てこない。このときに「肥後ノ守(ひごのかみ)」とは、いわば若い気力の代名詞だろう。昔の子供はみな、この肥後ノ守という名前の小刀(こがたな)を携帯していた。直接的な用途は鉛筆を削るためなのだが、なにせ小なりといえども刃物なのだから、実にさまざまな場面で活用されたものである。私の場合で言うと、蛙の解剖から野球のバット作りまで、教室の机にイニシァルを刻んだり、茱萸などの枝を伐ったりと、実に用途はバラエティ豊かなものがあった。たまに忘れて学校に行くと、なんだか自分が頼りなく思えたのだから、単なる鉛筆削りの道具以上の意味合いがあったことは確かだ。したがって、上級生くらいになるとときどき砥石で研いでは切れ味を確保することになる。まさに「名刀」扱いだった。でも、喧嘩に使われることは皆無に近かった。それこそ小なりといえどもが、昔の子供には節度を逸脱しないプライドがあったからである。そんなことをしたら、たちまち周囲から軽蔑される環境もあった。このような体験を持っていると、この雨の季節に掲句を吐いた作者の心情は痛いほどによくわかる。ならば「老いる」とは、いたましい存在になるだけなのか。私は私の肥後ノ守を、いま見つめなおしている最中である。いささかの錆は、隠し難くあるような。『夢明り』(2001)所収。(清水哲男)




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