今後一週間ずうっと東京は晴れの予報。気温も連日30℃台。空梅雨かな。水不足が心配。




2005ソスN6ソスソス25ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 2562005

 半袖やシャガールの娘は宙に浮く

                           三井葉子

元には「半袖」を季語の項目とした歳時記はないが、当サイトでは「夏シャツ」に分類しておく。作者は詩人。この夏、初めて長袖から半袖にしたときの連想だろう。軽やかな着心地が、身体の浮遊感を呼び起こしたのだ。そういえば、宙に浮いているシャガールの絵の「娘(こ)」も半袖だったと思い出し、半袖を着た軽快感も手伝って、気持ちも自然に若やいだのだった。シャガールの作品は多いので、作者がどの絵の娘を指して詠んでいるのかは不明だ。が、もしかすると絵は特定されておらず、彼の絵に頻出する幻想的な女性たちが醸し出している雰囲気を折り込んだ句かもしれない。人魚のような女性像もそうだが、シャガールの優しい色使いもまた、どちらかといえば女性好みだから、作者の連想には説得力がある。かりに男の作者が女性の半袖姿を見て詠むとしても、おそらくシャガールは出てこないと思う。半袖で思い出した。小学生のとき、雑誌に載っていたイギリス切手の写真に、エリザベス女王の横を向いた半袖姿の肖像画があった。むろんシャツではなく半袖のドレス姿だったのだけれど、思わず私は母に言った。「女王って、すごく太い腕してるなあ」。「女の人は脂肪が多いからだよ」とつまらなそうに母は言い、咄嗟に私は母の腕を盗み見たが、その腕は女王の半分くらいしかない細さだった。「そうかあ、脂肪かあ」と私は口に出し、「きっと美味しいものばかり食べてるからだな」とは口に出さなかった。『桃』(2005)所収。(清水哲男)


June 2462005

 冷房の大スーパーに恩師老ゆ

                           林 朋子

語は「冷房」で夏。長らく会うことのなかった「恩師」を、偶然にスーパーで見かけたのだろう。その人は、たぶん男性だ。「大スーパー」だから、二人の距離はだいぶ離れている。目撃しての第一印象は、「ああ、ずいぶんと歳をとられたなあ」ということであった。白髪が目立ち、姿勢も昔のようにしゃんとはしていない。近寄って挨拶するのも、なにかはばかられるような雰囲気である。スーパーでの男の買い物客は目立つ。とくに老人となると、よんどころなく買い物に来ているような雰囲気が濃厚で、気にかかる。妻や家族はいないのだろうか、あるいは病身の妻を抱えてるのだろうかなどと、むろん深く詮索するつもりもないのだが、ちらりとそんなことを思ってしまうのだ。ぎんぎんに冷房の効いた店内を、慣れない足取りで歩いている様子は、溌剌としていないだけに余計に年齢を感じさせるようなところがある。この後、作者はどうしたろうか。句の調子からして、ついに声をかけそびれたような気がするのだが……。これで見かけた場所が書店だったりすると、恩師もさまになっているので挨拶はしやすかっのだろうが、場所と人との関係は面白いものだ。ところで、私もたまにスーパーに買い物に行く。周囲の主婦たちのてきぱきとした動向に気を取られつつ、ついつられて余計なものを買ってしまったりする。目立っているのだろうな、おそらく私も。『森の晩餐』(1994)所収。(清水哲男)


June 2362005

 噛めば苦そうな不味そうな蛍かな

                           辻貨物船

語は「蛍」で夏。たしかにねえ、そんな気はするけどね。作者の辻征夫(「貨物船」は俳号)にゲテモノ食いの趣味はなかったはずだから、この発想はどこから出てきたのだろうか。句会の兼題に「蛍」が出て困り果て、窮余の一策で新奇な句をねらったのかもしれないが、それにしても蛍を噛むとは尋常じゃない。でも、人間は長い歴史の中でたいていのものは口に入れてきただろうから、蛍だって実際に食べてみた奴がいたとは思う。あんなに目立つうえに採取しやすい虫が、貪欲な人間の標的にならなかったはずはないからだ。そのときの様子を想像することは、それこそ私の趣味じゃないので止めておくけれど、少なくとも掲句の作者はちらりとは噛んだ感じを想像したに違いない。たとえ軽い冗談のような気持ちでの作句だったにせよ、物を表現するとはそういうことだ。ほんのちっぽけな思いつきにもせよ、発想者は発想の自己責任を取らされてしまうのである。で、作者は想像のなかで吐き出した。変なことを思いついちゃったなと、苦い表情の作者が目に浮かぶ。蛍よりもイメージ的にはマシな「薔薇」を食べてみたのは、これまた詩人の吉原幸子だった。実際に花びらを味わおうとして食べたのだそうだが、「あんなもの、不味くて不味くて……」とチョー不愉快そうな顔つきで話してくれたっけ。そのときのことは彼女のエッセイにもあるはずだが、私は話だけで十分だったので読んでいない。『貨物船句集』(2001)所収。(清水哲男)




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