ロンドンで同時爆破テロ。この憎しみの根底にあるものは何なのか。私にはわからない。




2005ソスN7ソスソス8ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 0872005

 明易や書架にむかしのでかめろん

                           伊藤白潮

語は「明易(あけやす)し」で夏、「短夜(みじかよ)」に分類。最近では午前4時を過ぎると、もう明るくなってくる。早起きの私などには好都合だが、もう少し遅くまで寝る習慣の人が、そんな時間に目覚めてしまうと、いつもの朝には見えなかったものが見えたりするものだろう。作者の場合も、おそらくそうである。目覚めたものの、まだ起き上がるのには早すぎる。かといって、もう一度寝直すというほどの時間でもない。どうしようかと思いながら、なんとなく部屋の隅の「書架」を眺めているうちに、昔買い求めた『でかめろん』の背表紙が目に入った。有名なボッカチオの『デカメロン』の翻訳書で、若い頃に読んだきりのまま、そこにそうして長い間さしてあったのだ。だから本当はいつでも目にしているわけだが、あまりにも長い年月にわたって同じ場所にあり取り出すこともなかった本は、もはや書籍というよりも書架の一部と化しているので、普段は意識することもない。それがたまたまの早朝の目覚めで、薄明かりの中に書籍としての存在感をもって出現したのである。当然に、読みふけった頃のあれこれがぼんやりと思い出され、「むかしのでかめろん」という柔らかな平仮名表記は、その思い出が多感な青春期の甘酸っぱさに傾いていることを暗に告げている。私も思わずもそうしたが、この句を読んで、あらためて自分の書架を眺めてみる人は多いだろう。誰にでもそれぞれに、それぞれの『でかめろん』があるはずである。『ちろりに過ぐる』(2004)所収。(清水哲男)


July 0772005

 瓜番へ闇を飛び来し礫かな

                           守能断腸花

語は「瓜番(うりばん)」で夏。マクワウリやスイカが熟する時期、夜陰に乗じて盗みに来る者がいた。これを防ぐための番人のことで、小屋の中で番をする。ウリ類が、今よりもずっと貴重だった頃にできた季語だ。瓜番を詠んだ句を調べてみると、おおかたは「まんまろき月のあがりし西瓜番」(富安風生)のように、平穏なものが多いようだ。瓜泥棒はこそ泥だから、誰かが見張っているとなれば、畑に近寄っても来ないからだろう。したがって、掲句のような例は珍しい。いつもは何事もなく過ぎてゆく瓜番小屋に、突然「礫(つぶて)」が「闇」の中から飛んできた。その鋭い勢いで、何か固い物が偶然に小屋に落ちてきたのではないと知れる。明らかに、誰かが小屋をめがけて投げたのである。単なるいたずらか、何かの挑発か、あるいは小屋に人がいるかどうかを探るために投げたのか。さっと緊張感が走った瞬間を言い止めた句で、こういう句は想像では作れない。現場にいた者ならではの臨場感に溢れている。この瓜番も近年ではすっかり姿を消してしまい、死語になった。が、サクランボの名産地で知られる山形などでは、夜間の見回りが欠かせないところもあると新聞で読んだ。世に盗人の種は尽きまじ……。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


July 0672005

 寝不足にやや遠ざけし百合の壺

                           能村研三

語は「百合」で夏。「寝不足」がたたって、体調がよろしくない。それでなくとも百合の花の芳香は強いから、こういうときにはいささかうとましく感じられるものだ。そこで、飾ってある壺を少しだけ遠ざけたと言うのである。花粉が飛び散らないように、そろそろっと壺を押しやっている作者の手つきまでが見えるようだ。このように、体調如何によって人の感覚は微妙に変化する。その昔の専売公社の宣伝に「今日も元気だ、煙草がうまい」というのがあったが、これなどもそのことをずばりと言い当てた名コピーだろう。だから、誰にとっても常に美しかったり常に美味かったりする対象物はあり得ないことになる。すべての感覚は、体調や、それに多く依拠している気分や機嫌の前に、相対的流動的なのであって定まることがない。ただ哀しいかな、私たちがそのことを理解できるのは体調不良におちいったときのみで、いったん健康体に戻るや、けろりと「永遠絶対の美」などという観念に与したりするのだから始末が悪い。飛躍するようだが、テレビなどという媒体は、視聴者が全員元気であることを前提にしている。したがって、身体的弱者や社会的弱者へのいたわりの気持ちが無い。早朝から天気予報のお姉さんがキャンキャン言い募るのも、視聴者がみな熟睡して爽快な気分で目覚めていると断定していることのあらわれで、句の作者のような状態ははじめから勘定の外にあるわけだ。やれやれ、である。『滑翔』(2004)所収。(清水哲男)




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