最終年度なのでどうしようかなと迷いましたが、アンケートを実施することにしました。




2005ソスN7ソスソス19ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 1972005

 片蔭の家の奥なる眼に刺さる

                           西東三鬼

語は「片蔭」で夏。夏の日陰のことで、午後、町並みや塀や家のかげに日陰ができる。作者は炎天下を歩いてきて、ようやく人家のあるところで日陰にありついた。やれやれと立ち止まり、一息入れたのだろう。と、しばらくするうちに、どこからか視線を感じたのである。振り向いて日陰を借りている家の窓を見ると、「奥」のほうからじっとこちらを見ている「眼」に気がついたのだった。いかにも訝しげに、とがめ立てをしているような眼だ。べつに悪いことをしているわけではないのだけれど、おそらく作者は慌ててそそくさとその場を離れたにちがいない。他人のテリトリーを犯している、そんな気遣いからだ。でも、たいていのこうした場合には、視線を感じた側の勝手なひとり合点のことが多い。家の「奥なる眼」の人はただ何気なく外を見ていただけかもしれないのに、それを「刺さる」ように感じてしまうのは、他ならぬ自分にこそテリトリー意識が強いからだと言える。つまり、自分の物差しだけで他人の気持ちを推し量るがゆえに、なんでもない場面で、ひとり傷ついたりしてしまうということだ。といっても、私たぐりちはこの種の神経の働かせ方を止めることはできない。できないから、余計なストレスは溜まる一方となる。現実から逃避したくなったり切れたりする人が出てくるのも、当然だろう。『俳句歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


July 1872005

 朝ぐもりはめても落ちる鍋のねじ

                           水津奈々枝

語は「朝ぐもり(朝曇)」で夏。季語として定着したのは近代以降と、比較的新しい。夏の朝、いっそ晴れていればまだ多少は清々しいものを、もわあっと曇っている。蒸し蒸しする。こういうときには、決まって日中は炎暑となるのだ。作者は、朝食の用意をしているのだろう。鍋の蓋のねじが甘くなっていたので、ぎゅっと締め直したはずが、ころんと外れて落ちてしまった。男だったら舌打ちの一つもするところだけれど、やれやれともう一度直しにかかる。「今日も暑くなりそうだ」。朝曇特有のけだるいような感じが、台所での些細な出来事を媒介にしてよく伝わってくる。「旱(ひでり)の朝曇」という言葉があるそうだが、日中の晴れと暑さを約束するのが朝曇りである。どうしてそうなるかといえば、「朝、夜の陸風と昼の海風が交代し、温度の低い海風が、前日、日照によって蒸発していた水蒸気をひやすため」(平井昭敏)だという。私の田舎では「朝曇は大日(おおひ)のもと」と言っていて、子供でも知っていた。なにせ夏期の農家のいちばん辛い仕事は、田畑の草取りだったから、目覚めて朝曇りだと、大人たちはさぞやがっかりしたにちがいない。「照りそめし楓の空の朝曇」(石田波郷)などと、風流な心情にはとてもなれなかったろう。そんな農業人の朝曇りの句がないかと探してみたが、見当たらなかった。「BE-DO 微動」(2005年5月・NHK文化センター大阪教室ふけとしこ俳句講座作品集1)所載。(清水哲男)


July 1772005

 大股になるよサングラスして横浜

                           川角曽恵

語は「サングラス」で夏。いいですね、この破調。「横浜」の体言止めも効いている。作者は横浜在住の人ではなく、遊びに来ているのだろう。地元ではかけないサングラスをして、ちょっと別人になった気分で街を歩いている。サングラスの効果でその気分も高揚し、足取りもひとりでに「大股」になってゆく。まるで映画か物語の主人公になったようで、心地よい。そして、この街は東京でもなく大阪でもなく、横浜なのだ。港町の自由で開放的な雰囲気が、サングラスにとてもよく似合っている。サングラスにもよるけれど、玉の色の濃いものだと、外部からはかけている人の目の動きは見えない。そのことを承知してかけていると、かけていないときよりも視線はぐんと大胆になる。普段なら自然にすっと視線を外すような相手でも、目を逸らさなくてすむ。私は三十代のころにサングラスを愛用した経験があるので、作者の弾む気持ちがよくわかる。この弾む気持ちを持続したくて、そのうちに夜の時間もかけるようになってしまった。早い話が、サングラス中毒になっちゃった。美空ひばりの母親が野坂昭如をなじって、「夜の夜中にサングラスをしているような男を、私は信用できない」と言ったころのことだ。ひばりファンの私としては大いに困惑したけれど、結局中毒には長い間勝てなかった。あのサングラス、家の中のどこかにまだあるはずだが……。『現代俳句歳時記・夏』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)




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