今日から夏休みという学校が多いでしょう。私の頃は退屈だったけど今の子は忙しそう。




2005ソスN7ソスソス21ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 2172005

 親ひとり子ひとり林間学校へ

                           山県輝夫

語は「林間学校」で夏。最近では「サマースクール」と言っているようだ。夏休みの数日間をを利用して、都会の子供たちが高原や海岸など自然豊かな土地で過ごす。勉強もするが、登山やハイキング、あるいは風呂を沸かしたり食事を作るなど、どちらかといえば規則正しい生活と健康増進がねらいの「学校」だ。明治期に外国の影響ではじめられたのだが、当時は身体虚弱な子供のための転地療養的な意味合いが濃かったという。さて、掲句の「子」は、はじめて親元を離れるのだろう。「親ひとり」の「親」は作者のはずだから、父親である。子供のほうは無邪気に喜々としているのだけれど、送り出す父親としてはいささかの不安がつきまとう。現地でのことにさして心配はないとしても、タオルや歯ブラシからはじまって着替えなど必要なものの準備は整っているのか、万一熱でも出した場合の薬類は持たせるべきなのか、等々の不安だ。すなわち、母親だったら簡単に常識的に片付けられるもろもろの準備が、男親ゆえに気がつかないところがあるのではないのかと、子の出発ぎりぎりまで心配なのである。参加者に配られたパンフレットを、子供が寝た後で何度もチェックしている作者の姿が目に浮かぶ。こんなに読者をも巻き込んで、はらはらさせる句も、そうめったにあるものではない。『俳句歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


July 2072005

 すれ違つてから金魚賣は呼ぶ

                           加倉井秋を

語は「金魚賣(金魚売)」で夏。かつては夏の風物詩だったが、最近ではとんと見かけなくなった。町を流して歩く金魚売りは、もう絶滅してしまったのかもしれない。句の作者は、おそらく自宅の近所を歩いているのだ。歩いていると、向うから車を引いてやってくる金魚売りが見えた。一瞬作者は「買って帰ろうかな」と思ったにちがいない。ところが近づいてきた金魚売りは、声をかけるでもなく「すれ違」い、通り過ぎたかと思ったら急に呼び声を出しはじめた。ただこれだけのことを作者が句にしたのは、最初は腑に落ちなかった金魚売りの態度が、後で十分に納得できたからだろう。つまり、金魚売りとはそういうもの、そういう商売なのであると……。要するに、彼の目指す客は道を歩いている人ではなく、常に彼の呼び声が届く範囲の家の中にいる人たちなのである。道行く人の袖を引いてみたところで、よほどの偶然に恵まれなければ、売れるはずもない。道行く人は仕事の最中だったり、遠くから来ている人だったりするからだ。したがって、すれ違う人はまず商売にはならない。ならない人に声をかけても仕方がないし、にもかかわらず面と向かって呼びかける格好になるのも失礼だしと、そんな配慮から作者とも黙ってすれ違ったというわけだ。最近車でやってくる物売りは、みなテープに売り声を仕込んでいるので、すれ違おうがおかまい無しにがなり立てつづけている。あれでは、とうてい風物詩にはなり得ない。『俳句歳時記・夏の部』(1955・角川文庫)所載。(清水哲男)


July 1972005

 片蔭の家の奥なる眼に刺さる

                           西東三鬼

語は「片蔭」で夏。夏の日陰のことで、午後、町並みや塀や家のかげに日陰ができる。作者は炎天下を歩いてきて、ようやく人家のあるところで日陰にありついた。やれやれと立ち止まり、一息入れたのだろう。と、しばらくするうちに、どこからか視線を感じたのである。振り向いて日陰を借りている家の窓を見ると、「奥」のほうからじっとこちらを見ている「眼」に気がついたのだった。いかにも訝しげに、とがめ立てをしているような眼だ。べつに悪いことをしているわけではないのだけれど、おそらく作者は慌ててそそくさとその場を離れたにちがいない。他人のテリトリーを犯している、そんな気遣いからだ。でも、たいていのこうした場合には、視線を感じた側の勝手なひとり合点のことが多い。家の「奥なる眼」の人はただ何気なく外を見ていただけかもしれないのに、それを「刺さる」ように感じてしまうのは、他ならぬ自分にこそテリトリー意識が強いからだと言える。つまり、自分の物差しだけで他人の気持ちを推し量るがゆえに、なんでもない場面で、ひとり傷ついたりしてしまうということだ。といっても、私たぐりちはこの種の神経の働かせ方を止めることはできない。できないから、余計なストレスは溜まる一方となる。現実から逃避したくなったり切れたりする人が出てくるのも、当然だろう。『俳句歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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