台風襲来。昔は七月の台風上陸など聞いたこともなかったのに。地球も傷んできました。




2005ソスN7ソスソス26ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 2672005

 昭和ヒトケタ夾竹桃は激流なり

                           富田敏子

語は「夾竹桃(きょうちくとう)」で夏。花期の長さは百日紅(さるすべり)に負けず劣らずで、秋になっても咲いている。とにかく頑健という印象が濃い。昔から毒性があると言われ(実際、強心作用のある物質を含むという)、一般家庭の庭などからは忌避されてきた。しかし、乾燥状態や排気ガスなどの公害物質にもめっぽう強いので、工場の周辺だとか高速道路脇などに多く植えられている。句の「昭和ヒトケタ」は、昭和の初年から九年までの生まれを指す。この世代はいちばん若い人でも、敗戦時には小学校(当時は「国民学校」の名称)の高学年であった。敗戦の意味もわかり、口惜しい思いもし、以後の混乱期の大変さを体感している。だから、この世代が夾竹桃の咲く季節になると必ず思い起こすのは、いまと変わらずピンクや白の花が咲き誇っていた往時のことどもだろう。まさに激動の時代、炎天下でのしたたる汗をこらえるようにして、数々の受苦をじっと耐え忍ぶしかなかった時代のあれこれのこと……。そういうことどもからすれば、群生する夾竹桃はただ単にそこに立って或る植物というよりも、むしろ激しく心をかき乱しに押し寄せてくる「激流」のようではないか。いや、激流そのものなのだ。この世代の人はみな、いまや七十代である。その七十代に、今年の夏もまた激流が押し寄せてきた。『ものくろうむ』(2003)所収。(清水哲男)


July 2572005

 艶めくや女男と冷蔵庫

                           村岸明子

語は「冷蔵庫」で夏。むっ、こりゃ何だ。ぱっと読んだだけでは、わからなかった。雑誌などでたくさんの句を流し読んでいるうちに、そんな思いで目に引っかかってくる作品がある。わからないのなら飛ばしてしまえばよいものを、気にかかったまま次へと読み過ごすのも癪なので、たいていはそこで立ち止まって考える。そんな性分だ。いや、損な性分かな。掲句もその一つで、しばし黙考。なかなか解けないので、煙草に火をつける。と、やがて紫煙の向うから、この女と男の情景がぼんやりと姿を現してきた。そうか、そういうことなのか……。なるほど「艶めく」はずである。現われた情景は、電化製品売り場だった。そこで、若いカップルが「冷蔵庫」を選んでいる。ただそれだけの図なのだが、通りかかった作者には、その「女」が妙に艶めいて見えたのだった。これがたとえば書籍売り場だったりしたら、そういうふうには見えないだろう。冷蔵庫は、生活のための道具である。つまり、生活の匂いがある。それを二人で選んでいるということは、二人が同じ家で共に暮らそうとしているか、既に暮らしている事を前提にしているわけだ。だから、他の場所だったら何気なく見逃してしまうはずの見知らぬ「女」に目が行き、表情の微細な「艶」までを読み取ったのである。冷蔵庫を二人で選ぶという行為には、公衆の面前ながら、そこからもう二人きりの生活がはじまっていると言ってもよい。女性が艶めくのも、当然といえば当然だろう。句として少々こなれが悪いのは残念だけれど、突いているポイントは鋭い。俳誌「貂」(2005年8月・第119号)所載。(清水哲男)


July 2472005

 蝉時雨一分の狂ひなきノギス

                           辻田克巳

ノギス
語は「蝉時雨(せみしぐれ)」で夏。近着の雑誌「俳句」(2005年8月号)のグラビアページに載っていた句だ。作者の主宰する「幡」15周年を祝う会が京都であり、その集合写真に添えられていた。私は俳人にはほとんど面識がないこともあり、こういうページもあまり見ないのだが、たまたま面白いアングルからの写真だったので目が止まったというわけだ。最前列の中央の作者からなんとなく目を流していたら、いちばん右側に旧知の竹中宏(「翔臨」主宰)が写っていて、懐かしいなあとしばし豆粒のような彼の顔を眺めていた。まあ、それはともかく、この「ノギス」もずいぶんと懐かしい。簡単に言えば、物の長さを測定する道具だ。外径ばかりではなく、段差やパイプの内径とか深さなども測れる。父親が理工系だった関係から、ノギスだの計算尺だの、あるいは少量の薬品などの重さを量る分銅式の計量器だのが、子供の頃から普通に身辺にあった。それらを私はただ玩具のように扱っただけだけれど、どういうものかは一応わかっているつもりだ。蝉の声が降り注ぐ工場か、あるいは何かの研究室か。ともかく暑さも暑し、注意力や集中力が散漫になりがちな環境のなかで、作者(だと思う)は「一分の狂ひ」もないノギス(精度は0.05ミリないしは0.02ミリ)を使って仕事をしている。測っていると、汗が額や目尻に浮かんでくる。それを拭うでもなく、一点に集中している男の顔……。変なことを言うようだが、「カッコいい」とはこういうことである。良い句だなあ。(清水哲男)




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