August 302005
秋澄むやステップ高き検診車
吉村玲子
季 語は「秋澄む」。秋の大気が澄み切った様子を言う。最近は検診車に乗ったことがないが、昔はたしかに一般のバスに比べて。少し「ステップ」が高かったような記憶がある(写真参照、1960年代に北海道で使われていた車両だそうです)。自動車のメカの知識は皆無だけれど、いろいろな精密機器を積む関係で、エンジンの種類や設置する場所などが制限され,どうしても車体を高くする必要があったのではなかろうか。会社をやめてから何度か、居住する自治体の検診車でレントゲン撮影などを受けた。検診を受ける気持ちには微妙なものがあって、若い間は健康に自信があったので気楽に積極的に受診できたのだが、五十代に入るころからいささか躊躇するといおうか、できれば避けたいような気持ちが強くなっていった。結果の通知をおそるおそる開くときの、あの、いやアな感じ……。まあ、そんな自分のことはともかく、このときの掲句の作者はすこぶる元気だったのだろう。元気でないと,いくら大気が澄んでいようとも、気持ちよく「秋澄む」と詠み出す気にはなれないはずだからだ。だからステップの高さまでが、むしろ心地よいのである。「よっこらしょ」としんどそうに乗るのではなく、高さに戸惑ったのは一瞬で、すぐに軽やかに乗り込んだのだと思う。「秋澄む」の爽やかな雰囲気を自然の景物ではなく、ちょっと意外な「検診車」を使って出したところがユニークで面白い。『冬の城』(2005)所収。(清水哲男)
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